誘導形近接スイッチの定格のうち、重要なものについて次に解説する。
誘導形近接スイッチ検出面の基準軸に沿って検出体が接近したとき、出力が反転するときの検出体表面から検出面までの距離を動作距離という。
定格動作距離は、動作距離を定めるための規定値のことであり、この数値には電圧・温度などの外部条件及び製造公差の変化を考慮していない。
誘導形近接スイッチの定格動作距離は一般に1~100mm前後であるが、JIS規格では次の様なものが規格化されている。(表2参照 弊社では検出距離と呼んでいる。)
実効動作距離は、個々の近接スイッチで定格電圧、周囲温度23±5℃及び取付条件の下で測定した動作距離のことである。
JIS規格では、定格動作距離の90%と110%の間でなければならない。
有効動作距離は、周囲温度範囲にて定格電圧の85%及び110%で測定する。
JIS規格では、実効動作距離の90%と110%の間でなければならない。
検出ヘッドの前方で検出体を検出する、いわゆる前面検出形の誘導形近接スイッチでの例を図8(引用 JIS C 8201-5-2:1999)に示す。
貫通形や溝形の近接スイッチでは測定の基準位置が各メーカで異なっているので、カタログなどで確認する必要がある。
通常の検出方法は、図9(b)に示すように検出体を検出面に対し水平方面に接近させることになる。
この場合、検出面から検出体までの距離が離れ過ぎると検出しなくなる。
このようなことがないように、距離の値は定格動作距離より小さい値をとらなければならない。 このような使い方で実際に設定可能な距離を保証動作距離と言う。(弊社では設定距離と呼んでいる。)
JIS規格では定格動作距離の0~81%と定義されている。
保証動作距離内で使用していれば標準検出体を使用する限り周囲温度や電源電圧の変化などがあっても、確実に検出することができる。
検出距離の測定に使用する検出体を特に標準検出体といい、通常、正方形をした規定寸法の厚さ1mmの鉄板(ISO 630に定める炭素鋼で圧延仕上げされたもの)を使用する。 (弊社では標準検出物体と呼んでいる。)
標準検出体の寸法は誘導形近接スイッチの形状や検出距離により異なるから、カタログなどで確認すること。
一般に標準検出体の寸法は、検出距離に影響を与えない最小寸法を示しており、標準検出体より寸法の大きな物体を検出する場合は、ほぼ定格の検出距離で検出する
IEC規格やJIS規格では、標準検出体の辺の長さは、有効検出面の内接円直径か、または定格動作距離の3倍のどちらか大きい方に等しいものに定義されている。
検出体の寸法が標準検出体より小形の場合は、検出距離が定格値より減少するのでカタログなどで確認を要する。
図10は検出体の大きさによる動作距離の変化の一例である。
応差とは、検出体が誘導形近接スイッチの検出面に対し垂直に接近したときの動作点と、検出体が離れて行くときの復帰点との間の距離である。
応差は、実効動作距離に対する比の絶対値で表す。
JIS規格では20%以下に定義されている。
応差の存在は、一見無意味なようであるが、応差のほとんどない近接スイッチを使用すると検出体が振動しながら接近する場合や、検出した瞬間に検出体を停止させた場合、 出力信号がオン/オフを繰り返す、いわゆるチャタリングを生じ制御に悪影響を与えることがある。
チャタリング防止のために、ある程度の応差が必要である。
図11に測定方法を示す。定格動作距離(Sn)の1/2のところに検出体を通過させたとき、オンもしくはオフ状態の出力信号が50μsに相当するときの1秒間に開閉可能な回数を言う。
動作距離の短い小形の誘導形近接スイッチは動作サイクル周波数が高く、大形で検出距離の長いものは一般に低い。
そのおよその値は次のとおりである。
誘導形近接スイッチは、一般に内部に樹脂を充填してあるので、水が容易に浸入することのない耐水構造となっている。
ただし、水中での長時間の防水性は保証していないから、水中または常に水にぬれる使い方や耐油性については、メーカに問い合わせ確認をとる必要がある。
図12に示すように、誘導形近接スイッチの検出面に対し標準検出体を水平方向に近付けた場合、検出状態になる瞬間のa点の位置を、さまざまな距離において求めプロットしたものである。
検出曲線が検出面に対し最も離れた点の距離(b)は動作距離に等しい。
1. 定格の(5)項で説明したとおり、検出体の大きさが標準検出体より大形の場合、その検出距離は定格値とほぼ同じ値となるが、検出体が小形の場合は検出距離が定格値より短くなる。
図10は検出体の寸法変化に対する動作距離の変化の一例を示した特性図である。
動作距離が短くなる範囲で使用する場合、設定距離も動作距離に比例して短くしなければならない。
標準検出体の材質はISO 630に定める炭素鋼とし、圧延仕上げされたものでなければならない。
寸法が同寸であっても材質が異なると検出距離は異なる値を示す。
また、検出時に発生する誘導電流は表皮効果により、主として検出体の表面を流れるから検出体表面の導電性により動作距離に差が出る。
したがって検出体の表面にめっきを施すと検出距離が変わるから注意を要する。
誘導形近接スイッチに対する環境変化の内で最も影響が大きく、常温値に対し、-25℃~+70℃程度の温度範囲で通常5~20%の変化がある。
誘導形近接スイッチは検出部より高周波磁界を発生させているため、2台の誘導形近接スイッチを接近させると検出コイルに他方の近接スイッチより出た磁界による誘導電流が流れ、 誘導形近接スイッチ相互間に電磁的な干渉が起き不安定な動作をするようになる。
この現象を相互干渉と言い、誘導形近接スイッチを並べて使用する際に発生する。
相互干渉は、誘導形近接スイッチの構造などにより異なるので、メーカの資料を検討し相互干渉の起きない範囲で使用しなければならない。
使用状況によっては、誘導形近接スイッチを接近して並べなければならない場合も考えられる。
このような場合には埋込み形近接スイッチ、または周波数区分を施した誘導形近接スイッチ(異周波タイプ)を使用すると良い。
検出コイルの外周部を金属体でシールドした構造を持つ近接スイッチは、側面方向に出る磁束が極めて少なく、並列に接近させても相互干渉は発生しにくくなる。
理由は磁力線がシールド金属を突き抜けることが難しいこと、シールド金属がショートリングを形成しており漏洩磁束を打ち消すことにより、側面へ出る磁力線が少なくなるからである。
ただし、埋込み形を密着して並べたり、検出面どうしを対向させると相互干渉が発生する。
相互干渉が発生する原因は互いに発振周波数が隣接しているからである。
発振周波数がある程度離れていると相互干渉は発生しにくくなる。
相互干渉対策として、同一形状、同一特性の誘導形近接スイッチで発振周波数をずらせたものがあり、これを周波数区分という。
誘導形近接スイッチを並べて使用する場合には、この周波数区分をしたタイプと標準形を交互に使用することにより、取付ピッチを小さくすることができる。