本文

技術情報

  • PLCの国際標準プログラミング:IEC 61131-3とは?
  •  

IEC 61131-3とは?
第2回 IEC 61131-3の特長 前編

松隈 隆志 PLCopen Japan代表幹事/オムロン株式会社

前回はIEC 61131-3が“PLCアプリケーションの開発効率化”を目的に誕生したことを説明いたしました。
ではなぜ本規格が開発効率化を実現出来るのでしょうか?その主な特長について、規格に準拠していない従来型のプログラミングツール(以下、従来ツールという)と比較しながら、今回と次回の2回にわたって解説いたします。

5種類のプログラミング言語

IEC 61131-3には、日本で普及しているラダーダイアグラムを含む3種類のグラフィック言語(LD/FBD/SFC)と2種類のテキスト言語(IL/ST)が規定されており、エンジニアのスキルや適用用途に応じて最適な言語を選ぶことが出来ます。*1

*1 IEC 61131-3では全ての言語のサポートをPLCベンダーに強制はしていません。
  よって、IEC 61131-3準拠のプログラミングツール選定の際はサポートされている言語に注意して下さい。

1. LD(ラダー ダイアグラム:Ladder Diagram)
リレーシーケンス回路の置換えや従来プログラミングツールに慣れているエンジニア向けのグラフィック言語で、日本の制御システム開発において最も普及しているプログラミング言語です(図1)。

LD(ラダー ダイアグラム)

図1. LD(ラダー ダイアグラム)

LDはリレーシーケンス回路と同等なロジックを使用しており、I/Oのインターロック処理など、ビットレベルの処理には向いていますが、システムが大規模かつ複雑になるほど機能単位での区分(モジュール化)が難しく、一本の巻物スタイルになってしまいます。そのため、第3者にとっては解読が難しく、他のシステムへの流用や将来発生すると思われる改造要求への対応が難しいことが欠点です。

2. FBD(ファンクション ブロック ダイアグラム:Function Block Diagram)
DCS(Distributed Control System)に慣れているエンジニア向けのグラフィック言語で、計装分野を中心に使われています。最近では制御適用範囲の拡大や、プログラムの可読性が向上するという理由でPLCでも使われることが多くなりました。

図2のように、FBD言語は電子部品(ファンクションと呼ばれる箱)とそれらを接続する配線により、あたかも電子回路を設計するようにプログラムを記述出来るため、データの流れが一目見てわかるという利点があります。ファンクションの左側にある変数は入力パラメータ、演算結果である右側の変数は出力パラメータと呼びます。

FBD(ファンクション ブロック ダイアグラム)

図2. FBD(ファンクション ブロック ダイアグラム)

3. SFC(シーケンシャル ファンクション チャート:Sequential Function Chart)
製造ラインなどの状態遷移を記述するのに適したグラフィック言語です。SFCは演算機能や入出力機能を持たないため、厳密には言語ではなく「要素」と規定されていますが、言語要素をあわせ持つため、ここでは言語として扱います。図3に図1の自己保持回路と等価なSFCプログラム例を示します。

SFC(シーケンシャル ファンクション チャート)

図3. SFC(シーケンシャル ファンクション チャート)

四角の箱のS001、S002は“ステップ”と呼ばれ、工程の状態を示します。特に2重四角のS001のことは“初期ステップ”と呼んでいます。SFC内では同時に1つだけのステップが実行され、実行状態にあることを“活性化”と呼びます。ステップの下に位置する横棒は“トランジション”と呼ばれ、次のステップへ移行するための遷移条件となっています。

S001からS002への遷移条件は“IN1”がTRUEかつ“IN2”がFALSEとなることです。この条件が成立したときにS001が非活性化されると同時にS002が活性化されます。S002の右横の四角は“アクション”と呼ばれ、S002で行う処理を記述します。S002が活性化状態の時、“OUT1”にTRUEが出力されます。“OUT1”へのTRUE出力は、S002の下に記述されたトランジション“IN2”がTRUEになるまで継続します。“IN2”がTRUEになると、S002は非活性化状態になり、最初のS001が活性化状態となります。

このように、SFCでは工程間の遷移条件や工程内の処理を分けて記載出来るところが利点です。

4. IL(インストラクション リスト:Instruction List)
従来のプログラミングツールにあるニーモニックに相当する言語で、マイコンで言えばアセンブラのようなテキスト言語です。
アプリケーションの小型化や高速化に有効ですが、プログラミングの生産性やメンテナンス性に劣るため、使用する機会は減ってきていると思われます。図1の自己保持回路をILで記述すると図4のようになります。

IL(インストラクション リスト)

図4. IL(インストラクション リスト)

5. ST(ストラクチャード テキスト:Structured Text)
PASCALをベースに設計された構造化テキスト言語で、パソコンの高級言語に慣れ親しんだマイコンボードの開発者やC、C++などの教育を受けてきた新卒のエンジニアに向いています。特に数値演算式やデータ処理など、LDが苦手としている用途で効果を発揮します。仮にLDで多項式あるいは括弧付きの計算式を処理しようとした場合は、初めに二つの項式に分解し、次に分解された其々の演算結果を一時的にメモリに格納してから、最後にそれらを繋げるといった処理が必要になってしまいます。このことは処理内容の可読性を著しく阻害してしまいます。

図5は図2のFBDと同じ処理です。“INPUT1”と“INPUT2”を加算した値を“INPUT3”から“INPUT4”を引いた値で除算し、結果を“RESULT”に代入しています。

ST(ストラクチャード テキスト)

図5. ST(ストラクチャード テキスト)

以上のようにプログラミング言語にはそれぞれ得手・不得手があり、適材適所で使い分けることによりコーディング時間の短縮や可読性の向上を図ることができるのです。
JEMA(社団法人日本電機工業会)によって作成された5言語の適正表(表1)を目安にして下さい。

※左右にスクロールしてご覧ください。

主な使用状況 LD言語 IL言語 ST言語 FBD言語 SFC言語
単純なリレーシーケンス処理 × ×
数式演算処理 × ×
状態せん移に基づく順序制御
(ステップシーケンス処理)
× ×
連続的なアナログ信号処理 × ×
複雑な情報処理 × ×
プログラムメモリ制約の厳しい場合 ×
最も高速に性能を求められる場合 ×
運転方案と対応がとりやすい表現 × ×
動作を視覚的に確認したい場合 × ×

注記 記号の意味は、次による。 ◎:最も適している、○:適している、△:困難な場合もある。×:適さない

表1. プログラミング言語の得意・不得意
(出典:JEMA「PLCアプリケーションの開発効率化指針」)

変数によるプログラミング

変数とは、データを格納する入れ物(メモリ)につける名前のことです。従来のプログラミングツールでは、入れ物の名前はアドレスであり、アドレスに付属する情報として名前(コメント)を付けていました。IEC 61131-3では、最初に変数(信号名)があり、属性としてアドレスの定義が可能となっています。表2のように、従来のプログラミングツールではベンダ毎に固有のアドレスが指定されているため、メーカー変更は勿論のこと、機種変更の際にもアドレスの管理に注意と労力が必要でした。その結果、多くのユーザは特定ベンダのPLCを使い続けることになったのです。

一方IEC 61131-3では、外部機器に接続される入出力信号以外はアドレスを割り付ける必要がありません。これにより、実績のあるプログラムを流用する際でも変数の変更は不要です。例えメーカーを変更する場合であっても、IEC準拠のPLC間では 外部入出力のアドレス定義だけに注意をすればよいのです。また、分かりやすい変数名を付けることでプログラムの「可読性」も向上します。社内における変数の命名ルールを決めておけば、次回に説明するコンカレント開発(分業)も容易になります。

※左右にスクロールしてご覧ください。

 従来ツールIEC 61131-3
A社B社①変数(信号名)②変数の型③アドレス
一般メモリV1.8M100運転準備BOOL自動割付
V1D0風量DWORD自動割付
V2D10運転日DATE自動割付
リテイン(保持)メモリMD3D100累積運転時間TIME自動割付
デジタル入力I0.0X00ファン始動BOOL%IX1.0.0
デジタル出力Q1.7Y01ファンモータBOOL%QX2.0.0
アナログ出力AQ4D1000風量INT%QW3.0

①IECでは変数(信号名)でのプログラミングが基本。
②変数のデータ型も厳格に定義 → 誤り防止。
③外部入出力など、絶対アドレスが必要なもののみ、アドレスを指定。

表2. 変数とアドレスの定義

今回はIEC 61131-3における「言語」と「変数」について説明しましたが、次回は「POU」や「タスク」など、プログラムのモジュール化について説明いたします。

参考文献;
図1~図5は「はじめてのST言語(PLCopen Japan監修)」より

この文章は情報ポータルMONOist(アイティメディア株式会社)に掲載された連載記事を再構成・加筆したものです。
PLCopen JapanのWEBサイトhttp://www.plcopen-japan.jp/

<< 第1回 IEC 61131-3とPLCopenの目的第3回 IEC 61131-3の特長 後編 >>