1. 温度調整アルゴリズムの3つの新機能
温度制御を行う装置の課題を特定し、その解決手段となる新機能を開発した。(第1表参照)
第1表装置業界課題と新機能
装置 |
課題 |
新機能 |
参照先 |
汎用(全装置) |
システム変動(ヒータ劣化等)による品質低下 |
適応制御機能 |
1-1節 |
包装 |
熱板(ヒートバー)の温度が正しく測定できないことによる不良品の増加 |
自動フィルタ調整機能 |
1-2節 |
成形 |
水冷押出成形機におけるシステム変動(摩擦熱等)の影響による、不良品の増加 |
水冷出力調整機能 |
1-3節 |
以下順に各機能の説明をする。
1-1. 適応制御機能 1),2)
温度制御を行う装置では共通課題として、ヒータ劣化や周囲温度などのシステム変動による品質低下がある。従来、この変動が発生する度にオートチューニング(AT)の再実行や、人手による再調整が必要であったが、適応制御機能は、システムの特性変化に追従して最適な状態を維持することを可能とする。
適応制御で温度制御をすると、昇温の過程でシステム性能の評価が行われる。この評価中に、温度調節器が算出した理想モデルと実際の入力値の差を捉える演算が行われ、評価完了と同時に算出された適応制御用のPID定数が自動設定される。
第1図 適応制御の動作例
この適応制御用のPID定数算出以降、装置を立ち上げるたびにシステム性能の評価が実施され、変化に対応したPID定数に更新される。そのため、継時的にヒータ等が劣化し、システムの性能が緩やかに変化しても、最適なPID定数で常に制御を行うことができる。(第2図参照)
第2図 変化に追従する適応制御の波形
1-2. 自動フィルタ調整機能
<包装機向け>
包装機を使用している業界では、コスト低減と生産性の向上のため、包材の薄肉化/包装の高速化を進める中、以下の課題が顕在化している。
- 薄肉化:包材の適正シール温度範囲が狭くなり、シール不良が発生する。
- 高速化:シール時の熱板の温度変動が大きく、シール不良が発生する。
シール不良となる原因の一つとして、熱板のシール面温度が関係する。従来の温度センサは、熱板のシール面から遠く、熱板の目標温度とシール面温度に大きな乖離があった。包材の厚みや包装スピードの違いで乖離温度が違うため、シール品質を保つには、製品の出来具合を見ながら、熟練者の勘と経験で目標温度を調整している状況であった。
この課題に対して、2つの方法を組み合わせて、解決を図った。シール面近傍の温度を正確に測る包装機用温度センサ*2 と、このセンサの使用により発生する温度揺れを改善する自動フィルタ調整機能である。
包装機用温度センサを使用すると第3図のとおり、シール面近傍の温度を測定できることが分かる。
第3図 包装機のシール部構造
しかし、包装機用温度センサを使用するとシール毎の温度変動が検出できるようになる。この温度変動が外乱となり、温度調節器の操作量が安定せず、さらに大きな周期(数十秒)の温度揺れが発生してしまう。
この大きな周期揺れを発生させないようにするのが2つ目の方法である新機能の「自動フィルタ調整機能」である。第4図に自動フィルタ調整機能の動作例を示す。
第4図 自動フィルタ調整の動作例
自動フィルタ調整を開始すると、フィルタ定数が自動でチューニングされることで、温度入力の過剰な外乱が抑えられ、適正な操作量の演算が可能となる。その結果、大きな周期の温度揺れが発生しない制御が実現できる。
上記のように、「包装機用温度センサ」と「自動フィルタ調整機能」を組み合わせて使用することにより、第5図のように、実際のシール面温度で品質を管理しながら、人の調整によらない安定した制御が可能となる。
第5図 従来センサと包装機用センサでの温度差
*2.包装機温度センサ(形E52-CA□□A□ D=1 S□)は、当社が開発した包装機向けの専用センサである。保護管径が細く、耐熱、耐屈曲性が高い特徴を持つ。
1-3. 水冷出力調整機能
<成形機向け>
成形機においては、材料のロット変化や、冷却水の流量変化、生産速度の変更などのシステム変動により、温度揺れが発生し、品質不良が発生することがある。
成形機の中でも水冷押出成形機の温度制御は特に難しいとされている。理由は、目標値が沸点を超える場合に、温度調節器の出力と冷却能力の関係が非線形になるからである。(第6図参照)これは水量が少ない場合、気化熱で多くの熱量を奪う現象に起因している。
第6図 水冷の非線形性
また、押出機の高速化により、スクリューの摩擦熱などの外乱が発生した場合、冷却能力は相対的に弱い状態になる。このため、加熱能力との均衡が取れずハンチングの原因となってしまう。
これらの課題に対し、水冷出力調整機能を新たに開発した。水冷出力調整機能は、水冷押出成形機の温度揺れを抑え、制御の安定性能を維持する。
本機能は、ハンチングの影響を軽減するため、冷却能力の強弱を冷却側比例帯を自動調節することで、温度を安定させる。稼動中に自動調整するため、常に最適な制御が可能となる。
第7図 水冷出力調整機能の動作イメージ
以上が3つの新機能の説明である。いずれも従来の手調整を自動化するものであり、熟練者に頼らない生産が可能となる。次章からは、この3つの機能を搭載したインパネルタイプの形NX-TCとオンパネルタイプの形E5CD/E5EDを紹介する。