安全に届ける役割の他、商品力やマーケティングにも強い関係がある「包装」。包装の役割は増え続けており包装機械の需要は高まっている。一方で、ニーズそのものは細分化が進み、機械メーカーにとっては対応が難しい局面が続いている。こうした環境をどう切り抜けるのか。「包装」の現場を70年以上支えてきた包装機械のリーディングカンパニーである大森機械工業に取り組みを聞いた。
日本国内でスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどに行くと目にするものは何だろうか。生鮮食品を除けば、多くの売り場で直接目にしているのは「包装(パッケージ)」である。家族構成の変化などもあり、個包装化が進んでいる他、従来パッケージできなかったものが技術革新によってできるようになるなど、包装へのニーズは引き続き高いものがある。
一方で、環境意識の高まりから、過剰包装への抵抗感が高まっており、不必要な包装は抑えようという動きが強まっている。従来は複数の包装などで実現していた安全性や密封性を1つの包装で賄うというような状況が生まれ、包装およびその包装を行う包装機械には従来以上に信頼性や高機能性が求められるようになっている。
ただ、包装機械は基本的には納入先の仕様に合わせたオーダーメイド型のカスタム製品である。個別対応型の開発、生産体制で、多様化する要望に応えていくには難しいものがある。こうした厳しい状況に「モジュール化」を徹底することで対応しているのが、包装機械業界のリーディングカンパニーの1社である大森機械工業 である。同社のモジュール開発の動向について聞いた。
包装業界で70年の歴史を持つ大森機械工業
大森機械工業は、自動包装機の製造、販売と、包装システムラインの設計、製造を担う70年以上の歴史を持つ企業である。1955年には日本初となる魚肉ソーセージ用の全自動充填結紮機を開発するなど、時代のニーズに応じた独自の包装機器を開発してきた。現在も、市場の変化、環境問題への対応などの課題に対処すべく、総合力を生かした製品作りに取り組んでいる。
食品や薬品、日用品などは包装により、流通時に商品の内容物が保護され、保存性や携帯性が向上し、さらに流通効率や、表面印刷することで商品力自体が高められている。この包装作業を行うのが包装機械で、大森機械工業では「包装機械に与えられた使命は、お客さまの商品をしっかりと確実に包むこと」を社訓としている。主に食品、医療品、日用品メーカーなどに製品を提供しており、年商は230億円(2018年5月期)、従業員数は587人(同)となっている。
大森機械工業のモノづくりは、主に部品を工場で組み立てて出荷する組み立て生産の形を取っている。基本的には包装機械はほぼ全てが顧客の要望に対応する必要があるオーダーメイド品である。個々の顧客の要望に丁寧に対応するため、各包装機械の開発プロセスはまさに緻密な対応が求められる。そのための機械設計、電気設計、製造、営業のチームワークが同社の最大の強みとなっている。
包装機械を取り巻くニーズの変化
ただ、最近の包装機械の業界にもさまざまな変化がみられる。「特に大きいのが、環境問題への対応と、人口減少に対する対応の2つの大きな変化です」と大森機械工業 技術生産本部 第1事業部 第1電気設計部 チーフの吉岡伸洋氏は語る。
環境問題に配慮した包装ニーズへの対応については、ごみの削減や、省資源化、省エネルギー化などのニーズから、過剰包装の排除や簡易包装化、環境に配慮した包装材料の開発などがある。
一方で、人口減少や少子高齢化などの市場環境の変化については、新たな需要に対応した新しい包装の開発や、高齢者に扱いやすい包装形態の開発、少量多品種生産への対応などが不可欠となっている。さらに、食品などの生産現場でも人手不足が叫ばれており、この問題に対処するために包装機械にも生産効率化に貢献する機能を求める声も高まってきている。
少子化が進む国内市場に対して、人口増で需要が拡大している海外市場は大幅な需要の増加が見込まれている。日本の包装技術は世界的に見ても高いレベルにあり、海外市場の発展に伴い、日本の高機能な包装機の需要は増えているためである。
これらは、ニーズの多様化と複雑化が従来以上に高まっているということを示す。大森機械工業にも顧客からのさまざまな要望が寄せられているという。
「環境問題とともに、簡易包装化が進む一方で、仕上がりを厳しく要求する声も強くなっています。これは包装機械にとっては相反するニーズといえるでしょう。さらに、製造現場での省人化の動きが非常に強くなっています」と吉岡氏はニーズの変化について語る。
これらはモノづくりにどういう影響を与えるのだろうか。「従来は1台の包装機で同じ品種を作り続ければよかったので、機能の向上も部分的なものでした。しかし今は同じ機械で10~20品種、多くなると100品種の多品種を包装することもあります。さまざまなモノを包装できる機械が求められており、1台当たりでの柔軟性が求められているといえます」と吉岡氏は違いについて述べる。
さらに、取引先が大企業から中小企業まで幅広くなり、自社ブランドだけ製造するところもあれば、さまざまなブランドの製品を請け負う企業(OEM)なども生まれている。そのため、それぞれのサイズ、形状に合わせて包装できる能力も必要となる。ブランド別に機械を入れ替えることもできないため、品質はもちろんだが、1台で多品種に対応できる機能が求められるのだ。
こうしたそれぞれが相反し複雑に関連し合うニーズがある一方で、需要そのものが高まっているという状況は、包装機械開発の立場で見ると、非常に難しい環境であるといえる。
「包装機械は基本的には顧客の要望に応えるオーダーメイド型の製品開発となっています。そういう中で需要が増えると、その分だけ設計開発のリソースも必要になります。量産が可能であれば、同じ設計のマイナーチェンジなどにより、少ないリソースでも対応することが可能ですが、納入先ごとに異なる製品ではそれも現実的ではありません。リソースが限られる中、オーダーメイド型の製品開発にどのように取り組むのか、ということが課題としてありました」と吉岡氏は課題について語る。
モジュール化によって実現する「柔軟性」
こうした状況の中で、大森機械工業ではどのように設計開発の効率化に取り組んだのだろうか。ポイントになったのが「モジュール化」である。
包装機械は、包装用フィルムを巻き出し軸で供給し、供給されたフィルムを搬送ローラー軸で袋サイズ分送りながら縦方向の貼り合わせを行い、袋状に成形し、シールして、コンベヤー軸で払い出すというのが基本的な仕組みとなっている。
吉岡氏は「包装機械のこれらの標準的な工程については、どの包装機械もそれほど変わりません。一方で、変化が大きいのはその他の部分です。例えば、仕上がりをどうするのかということや、扱う包装材の幅、機械の長さなど、基本機能を取り巻く要素や機能などが違いとなっているのです」と述べる。
こういう状況でまず大森機械工業では包装機械の基本的な構成を示す標準機を用意し、基本構造の標準化を行った。さらに、その他の個々の機能を、引き合いが多いものからモジュール化していき、毎回新たに設計するのではなく、モジュールの組み合わせで対応できるようにしてきたという。
「標準機をベースに、顧客からの要望に応えられる製品をどう効率的に作るかということを重視してきました。毎回開発するのではなく、それぞれ機能を持つモジュールを組み換えることで装置自体を構築できるようにしました。これは従来さまざまなユーザーのもとに入り、包装機械を納入してきた当社だからできることだと考えています。既に数多くのモジュールを用意できていますが、カバーできていない領域や機能についても順次モジュール化を進め、できる限り効率化を実現していきます」と吉岡氏は取り組みについて述べている。
こうしたモジュール化や設計の効率化を裏から支えているのがオムロンの制御機器である。大森機械工業とオムロンの関係は古く、センサーやコントローラーなどの数多くの製品を採用してきたという。ただ、現在協力によって進めているのがまさに設計開発における柔軟性の向上に向けた取り組みである。
オムロンでは早期からPLCでPCアーキテクチャを採用した他、IEC61131-3など世界標準に準拠。また、グローバルなオープンネットワーク規格などを採用し、これらの標準のもとで作られたプログラムなどを柔軟に活用できる仕組みを提供してきた。
吉岡氏は「包装機械は最終的にはユーザー工場内のラインや機械との関係性も出てくるために、オーダーメイドで対応すべき部分は必ず残ります。その他の領域をどこまでモジュールの組み合わせで実現できるようにするのかが、設計開発の効率化の大きなポイントとなります。そういう意味では、さまざまなソフトウェアやプログラムが活用できるオムロンの制御基盤は魅力的だといえます」と述べている。
まだ、現実的には量産機などには採用されているわけではないが「プログラム開発などもFAプログラムからITプログラムへと広がっていますが、さらに簡略化できることが求められています。オムロンの制御基盤であれば、そういうことも実現可能だと考えます」と吉岡氏は期待を寄せている。
IoTや予防保全など新たな価値への挑戦
さらに、大森機械工業がオムロンに期待するのが「今後を見通した環境を提供していることです。具体的にはIoT時代を見据えた予防保全などの機能を組み込むのに、オムロンの機器やソリューションは最適だと考えます」と吉岡氏は語る。
ダウンタイムの低減が大きなポイントなる包装機械だが、今までは予期せぬ故障時などには緊急での対応が必要となり、さらに必要な部材なども分からないために1度で解決できない場合が多かった。IoT(モノのインターネット)化を進めて、機械のデータを常に取得できるようになれば、故障の予兆などを確認できるようになり、壊れる前に保全作業を行うことができるようになるというものだ。
IoTへの取り組みについては、大森機械工業全社でも重要ポイントとして取り組みを強化している領域だという。展示会などを担当する大森機械工業 営業本部 マーケティング室 室長の大森頼子氏は「顧客の中にはIoTやAI(人工知能)の活用に関して興味を持っているところが多くあり、展示会などでのアピールも求められているといえます。最近の展示会ではAI機能を搭載したロボットを組み合わせたシステムラインを紹介し好評を得ることができました。省人化や高効率化を実現する上で、IoTやAI、予防保全などへの取り組みは強化していきます」と述べている。
既にPLCからデータを取り出しPC上で活用することを目指した「見張ろうくん」などは製品化しているが、それ以上にIoTの価値を生かした製品やソリューションの実現にはまだまだハードルが多く残されているというのが現実である。
吉岡氏は「まだ難しさはありますが、予知保全や予防保全へのニーズは非常に高いものがあるのは理解しています。実現に向けた挑戦が必要な領域だと考えています。その意味で、上位のシステム連携との相性が良いオムロンの制御機器群は重要な意味があると考えます。またオムロンが持つ自社および他社でのIoTシステム構築などの事例についても魅力的に感じています」と語っている。
今後の包装機械の発展について吉岡氏は「目指すものは顧客にとっての『仕上がりの質』であり、それは今までもこれからも変わりません。より品質を高め、より使いやすい機械へと改善することを目指していきます。その上で、これらに付加できる機能を増やしていく考えです。ただIoTやAIの活用は切り離せなくなっていると考えており、今後はオムロンを含めた他社との協業も含めつつ新たな包装機械の発展に取り組んでいきます」と述べている。