物流倉庫の自動化に貢献。ロボットで解決するEC需要増/人手不足
物流業界では、EC(電子商取引)の利用増に伴い需要が増加し続けています。一方で、需要増加に対応するための人材確保は年々難しくなっており、人手不足解消が大きな課題です。この課題を解消するための手段として、物流を自動化するロボットが注目されています。
ここでは、物流倉庫にロボットを導入すべき理由や代表的な搬送ロボットの特徴、導入事例を解説します。
物流倉庫に自動化ロボットを導入すべき理由

物流における環境変化-EC市場の拡大
経済産業省が2021年7月に発行したECに関する市場調査の報告書によると、2020年の一般消費者向けの物販EC市場規模は12兆2,000億円程度であり、2013年から7年で2倍に拡大しています。
また、近年の顕著な傾向として、DtoC(Direct to Consumer)とよばれる、企業が大手ECプラットフォームなどを使わずに自社のECサイトから直接消費者に販売するケースや、海外からの越境ECといったEC市場の拡大に伴い、物流倉庫の需要がますます増加しています。
物流倉庫における人手不足の深刻化
物流倉庫の需要が高まる一方で、国内では労働力人口の減少により、物流倉庫で働く人材の確保が難しくなっています。そのため、従業員の時間外労働が増加し、職場環境の悪化を招いているケースも少なくありません。
また、重量物の運搬など身体負荷や危険度の高い作業は傷病リスクが高く、労働環境の面で改善が求められる領域です。
人手不足解消に有効な搬送ロボット
物流倉庫における人手不足を解消するカギは、搬送ロボットの導入です。
倉庫内搬送の業務は大まかに、倉庫への搬入、商品のピッキング、梱包、仕分け、出荷場所への搬送、積み込み、といった工程に分類できます。搬送ロボットの導入により、これらの工程のうち現在人手で行われている工程を自動化できるようになります。
身体への負担が大きい作業や単純作業を搬送ロボットが担うことで、人手不足の解消や、従業員の負担低減による作業精度・従業員満足度の向上に繋がります。
搬送ロボットには、移動棚ロボットであるGTP、自動搬送ロボットであるAGV、自律走行搬送ロボットであるAMRなどがあります。
GTPはGoods To Personの略称で、作業者の元まで荷物を運んでくるタイプの搬送ロボットです。Amazonが導入したことで有名な、棚ごと移動させる棚移動型のロボットです。
AGVはAutomatic Guided Vehicleの略称です。倉庫内にあらかじめ磁気テープなどのガイドラインを設置し、ライン上をAGVが走行します。
AMRはAutonomous Mobile Robotの略称で、ガイドラインを必要とせず、自律走行が可能なロボットです。作業者を認識し避けることが可能なため、同じ空間で協働作業を行えます。
以下、各搬送ロボットの特徴について説明します。
移動棚ロボット(GTP)の特徴

GTPのメリット
GTPは棚ごと作業者の元へ移動してくるため、作業者は倉庫内で商品を探し、見つけた商品を持って動き回る必要がなくなります。移動時間削減による生産性向上や、従業員の負担軽減につながります。
また、GTPを導入すると商品棚と商品棚との間に人が移動するための通路用スペースを確保する必要がなくなるため、商品保管用のスペースを最大化できるといったメリットがあります。大量の商品を効率的に処理する場合に適した方法です。
GTPのデメリット
一方で、GTPは初期投資費用が大きくなるといったデメリットがあります。ロボット本体に加えて、可変式の移動棚やロボットの運行管理を行うシステムの導入が必要です。また、作業者とロボットの作業エリアを明確に分けるため、導入にあたってはレイアウト変更や、ロボットが認識するためのマーカー設置なども必要になります。
このように、GTPは大規模なインフラ整備を前提とするため、投資対効果の検証が必要です。
自動搬送ロボット(AGV)の特徴
AGVのメリット
AGVはGTPほど大規模な設備変更なしに導入でき、GTP同様に作業者の負担軽減や人為的ミス減少を実現できます。
AGVの限界
一方でAGVを活用できる環境には制限があります。
AGVは倉庫内に設置された磁気テープなどのラインに基づいて移動するため、導入時に設備変更やライン敷設工事が必要です。ルート変更をする場合には、磁気テープを貼りなおす必要があります。また、障害物を避けることはできず、障害物を認知するとその場で停止してしまうため、作業者による復旧が必要です。
頻繁にレイアウトや搬送ルートが変わる場合や、ルート上に人の往来が発生する場合には、 AGVの活用が難しい可能性があります。
AMR(自律走行搬送ロボット)の特徴 物流倉庫の課題解決に有効
大規模な設備投資が必要なGTPや、ライン敷設の必要なAGVにかわり、設備変更を必要とせず人と働けるAMRが搬送の自動化手法として注目されています。
AMRのメリット
AMRは自律走行搬送ロボットで、GTPやAGVと異なりレール設定なしの柔軟な搬送が可能です。また、GTPと異なり、作業者と同じ場所で運用できるため、物流工程の中でも特に出庫検品工程の自動化に最適です。
AMRは、カメラによる画像認識やレーザーSLAMにより倉庫内の地図を作成し、自己位置を推定します。事前に、ロボットが認識するための二次元コードや磁気テープを工場内に設置する必要はなく、ライン上の障害物を認識し、回避して走行します。
AMRは、導入時に設備変更が不要なため、導入コストを抑えられます。また作業者と協働できるため既存の作業手順の変更を最低限に抑えられ、小規模な倉庫でもコスト回収が可能です。また、AMRは搬送工程を自動化するだけでなく、AMRと協働ロボットを組み合わせて使用することで、パレタイズやラベル貼りといった一連の工程の自動化も可能になります

AMRの導入事例
実際に、AMRを導入することで自社の工場や物流施設における課題を解消した事例を2つ紹介します。それぞれの企業が現場で抱えていた課題やAMR導入時に気を付けたポイント、導入による効果を、導入を検討する際のご参考にしてください。

複数フロアを跨いだ搬送の自動化により搬送専属人員を削減、生産性向上を実現
紳士服メーカの株式会社センチュリーテクノコア様では、工場の増設により搬送の距離が延び、さらに複数階を跨いだ搬送が必要となりました。このような搬送ルートの変化による、作業者の身体的な負担増や、企業としての生産性低下が企業課題となっていました。
この課題を解消するために、2台のAMRを導入しました。
AMRは、常に周囲を認識しルートを検索しながら自律走行するため、複数階にまたがる複雑なルートでの搬送に対応します。また既にAGVが導入済みの場合も、走行中のAGVを回避して走行できます。この企業では、2台のAMR導入により、1台あたり0.8人分の工数を削減。搬送専属人員をなくし、他の付加価値作業に人員転換することができました。
自律走行によりレイアウトそのまま複数工程間のフレキシブル搬送を実現
株式会社明治様では、製菓完成品トレイの包装工程への搬送、包装後の空トレイのトレイ置き場への搬送という2つの搬送工程において、作業員が運搬を実施していました。 数kgに及ぶ製菓の搬送は身体への負担が大きいため、自動化検討が進められていました。しかし、搬送ルートは他の作業者の通行ルートと重なっており、コンベアやAGVでの工程間搬送は難しい環境です。自動化にあたっては作業者の通路と搬送ルートの両立を行う必要がありました。
この課題を解消するために、AMRを3台導入しました。AMRは複数工程間の搬送に対応可能なため、状況に応じて3台のAMRが自律的に2つの工程間搬送を分担します。
走行ガイドライン不要で、人や障害物を認識して回避できるAMRの導入により、従来のレイアウトを変えずに作業者との共存を実現しました。また、3台のロボットがフレキシブルに状況に合わせて動くことで、搬送工程が効率化し、年間経費を920万円削減することに成功しました。
オムロンでは、物流倉庫や工場などで使用できるAMRを取り扱っています。
また、倉庫内搬送に付随して発生するパレタイズやラベル貼りの自動化に対応する協働ロボット*、周辺機器や安全機器などのさまざまな制御機器を取り揃えており、ライン全体の自動化をご支援します。
- *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています