半導体の生産性向上を支えるカギは「ロボット」。そのメリットと採用例
半導体は、現代社会のあらゆる営みを支えるために欠かせない電子部品となりました。半導体を製造する工場は、あらゆる業界の工場の中で、最も自動化が進んでいる分野だといえます。半導体工場の中には、生産性と品質を最大化させるための多種多様な自動化設備が設置されており、生産計画に沿って、365日24時間体制で高度なチップを作り続けています。そして、工場内では、工程間を結んでウエハを運ぶ搬送ロボットや製造装置に加工対象となるウエハを出し入れする水平多関節ロボット(スカラロボット)などが利用されています。
ここでは、半導体工場で活躍するロボットとその利用効果について解説します。
あらゆる産業の発展に欠かせない半導体
半導体はスマートフォンなどの身近な電子機器だけでなく、未来のクルマやスマートファクトリーを構成する製造装置など、高度な技術の実現に欠かせない存在です。デジタルトランスフォーメーション(DX)や脱炭素化など、近未来のメガトレンドに沿った産業や社会の発展は、多種多様な半導体を、これまで以上に大量に利用することで実現していきます。富士キメラ総研の調査データ*)によりますと、2021年時点で約35兆円である世界の半導体市場は、これからも成長し続け、2026年には50兆5000億円に達すると予測されています。暮らしや社会を、より豊かで持続可能なものにしていくためには、高度な半導体をより効率的に生産できる工場が欠かせません。
*出典元:株式会社富士キメラ総研「『2021 先端/注目半導体関連市場の現状と将来展望』『中国半導体メーカーの最新動向調査 2021』まとまる」
製造業の中でも、半導体工場は、製造ライン上の工程や作業の自動化と省人化が極限まで進んでいる先進的な例だと言えます。
半導体工場の中は、大型の製造装置がところ狭しと並んでいますが、工場内で働く人の数は驚くほど少数です。これは、人間を半導体チップの歩留まりを落とす汚染源とみなして、工場が設計されているためです。人間に付着した埃や吐く息に含まれる水分、肌の油や流れる汗は、すべて半導体チップを汚染し、誤動作させる要因となります。
半導体業界では、作業の自動化をできる限り推し進め、工場内に人がいなくても生産できる状態の実現を追求しています。このため人手で行った方が効率的に感じる作業であっても、自動化する傾向があります。
人手作業を極力排除した半導体工場では、生産性を高めるための注力点が大きく2つあります。
1点目は、露光や成膜、エッチングなど、各工程での処理に用いる製造装置のスループットと歩留まりの向上。2点目は、工程間を結ぶ搬送手段や製造装置にウエハを出し入れするマシンテンディングや移送するハンドリングの手段の高効率化です。
いずれも、機械による作業の効率化が取り組みの軸になります。
変種変量生産の生産性向上のカギを握るロボット
半導体はチップの種類によって生産スタイルが異なり、パソコンやサーバなどに搭載されるCPUやメモリは仕様の標準化が進んでおり、少品種大量生産されています。このため、これらのチップの工場では、生産性が、製造装置のスループットや歩留まりによってほぼ決まる傾向があります。
これに対し、品種数の多いロジックチップやアナログICは多品種少量生産されています。生産性向上のためには、搬送の効率化がカギになります。品種の切り替えに応じて、搬送経路を変更する手間や待ち時間が発生するからです。
近年、市場ニーズに応じて製造する品種と量が頻繁に変わる変種変量生産の傾向が高まっています。製造するチップの種類ごとに製造プロセスが変わるため、工場内では品種変更に伴う段取り替えが頻繁に発生するようにもなりました。生産スケジュールに沿った製造レシピの変更に対応して、自動的かつタイムリーに搬送や段取り替えができる仕組みが求められています。こうした時代の要請に応えるため、搬送などの作業には、柔軟に作業を遂行できるロボットが利用されています。
半導体工場の中では、以下のような多様なロボットが利用されています。

現代の半導体工場では、製造装置を置くクリーンルームのクリーン度を高くするだけでなく、工程間でウエハを搬送する際に1ロット(一括処理する際の最低単位)分をさらにクリーン度の高い「FOUP(Front-Opening Unified Pod)」(以下フープ)と呼ぶ密閉した箱に入れて搬送しています。各工程にはウエハを入れたフープを一時待機させるストッカ(保管設備)が付設されています。そして、生産スケジュールに応じて製造装置の所定の位置にセットし、フープの中からウエハを1枚ずつ取り出して定められた製造プロセス条件で処理します。
フープの中からウエハを取り出して、製造装置の中に入れる作業には、クリーンルームでのウエハのハンドリングに最適化したスカラロボットなど「クリーンロボット」が利用されています。クリーンロボットは、フォーク状の治具の上にウエハを載せて搬送します。後工程と呼ばれる、チップをパッケージに収める工程では、切り出した小さなチップをつまみ上げて、パッケージの所定の位置に置くピック&プレイスに、スカラロボットが利用されています。
ストッカから装置までの搬送には、人が踏み込む可能性もあることから、AGV(無人搬送車)ではなく、人と協働して運用できるAMR(自律走行搬送ロボット)が使われている工程があります。AMRの上には、垂直多関節の協働ロボットを載せられており、ストッカから処理対象となるフープを自動的に持ち上げ、製造装置にセットします。
そして、工程間(ストッカ間)では、AGVの一種を用いたAMHS (Automated Material Handling Systems:自動材料搬送システム)を用いてフープを搬送しています。一般的には、工場の天井に設置されたレールに沿って、フープを吊り上げたAGVが管理システムの制御の下、搬送先まで運びます。このような天井走行式のAGVは、「OHT(Overhead Hoist Transport)」と呼ばれています。
半導体工場に導入するロボットに求められる条件
半導体工場で利用されるロボットには、半導体工場固有の事情に適応できる仕様が求められます。半導体工場に導入するロボットに求められる条件を紹介します。

クリーン性能
半導体工場向けのロボットは、稼働中に、クリーンルームの環境を汚染しないことが重要です。可動部の部品の摩擦で微小なゴミが発生したり、潤滑油やグリースなどが飛散すると汚染につながります。特に、ウエハがむき出しになる部分に置かれるロボットは、クラス1(手術室よりもクリーン度が1000倍高い状態)のクリーン度を維持できるものである必要があります。ただし、半導体工場の中でも、出来上がったチップを組み立てる工程でのクリーン度の要求は比較的低く、クラス1000(手術室と同程度のクリーン度)であれば十分です。
高速
現在の半導体工場は一辺が数百mで延床面積が数万~数十万m2という巨大なものであり、工程間でかなり長い距離を搬送する場合があります。生産性を向上させるため、工程間搬送に用いるロボットには、高速搬送できる性能が求められます。半導体工場の現場は巨大であるからこそ、工程間の搬送は棟間搬送や複数フロア間の搬送が必要になる場合もあります。その際に周辺の設備、例えば自動ドアやエレベーターとの自動連動も必要不可欠になってきます。これも近年では、AMRの機能強化によって、対応できつつあります。ただし、基本的に、搬送ロボットが人と共存することは考える必要はなく、むしろ搬送ロボット同士で干渉したり、渋滞したりすることがないように、その時点での最短時間での到達ルートを導き出して運ぶ機能が必要になってきます。また、工程内の搬送でも速い搬送が求められます。特にウエハがむき出しになった状態での搬送は、搬送している間にも劣化が進む場合があり、搬送時間は生産性だけでなく、品質、ひいては歩留まりに直結します。
高精度
一般に、ナノメートル・オーダーの微細回路を形成する半導体製造の処理には、一つひとつの作業に非常に高い精度が要求されます。クリーンロボットや協働ロボットなどを使ったマシンテンディングには、高速でありながら、絶対位置精度が0.05mmと高い精度での搬送が求められる工程もあります。
生産システムとの連携動作
生産スケジュールや各工程での処理の進捗状況に合わせて、タイムリーに搬送できる仕組みが欠かせません。このため、搬送に用いる各種ロボットの制御は、生産システムと連携できる必要があります。特に、製造するチップの品種が頻繁に変わる工場では、高速、高精度、シームレスに連携できることが特に重要です。半導体工場では、各工程での処理とその条件、搬送などを、MES(Manufacturing Execution System:統合生産情報システム)で管理します。そして、工程間搬送や工程内搬送、FOUPを一時待機させるストッカの動作は、MESからの指令に従って搬送制御システムによって、管理・制御されています。その先の搬送に用いるロボットなどとの間は、SEMIの標準通信規格である「IBSEM(工程間搬送設備や工程内搬送設備向け)」や「STOKER SEM(ストッカ向け)」に準拠した通信によって伝えられます。ロボットは、こうした通信標準に準拠している必要があります。
半導体工場への導入に向けたオムロンのソリューション

オムロンでは、協働ロボット*や自動搬送モバイルロボット、クリーンルーム対応のタイプも揃えるスカラロボットなど、半導体工場でのさまざまな自動化ニーズに対応できるロボットを提供しています。これらを活用することで、工程内の装置間での搬送を柔軟に自動化することが可能になります。さらに、モバイルロボットLDシリーズに協調ロボットTMシリーズを搭載した移動型作業ロボットとしてモバイルマニピュレータ「MoMa」も開発。クリーンルーム内を巡回しながら、クリーンルーム内環境の清浄レベルを自動測定する応用などが実現しています。
- *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています