ロボットハンド/ロボットアームの種類と選定方法、活用事例
人手不足解消と生産性向上を目指し、製造業では、従来人手で行っていた作業をロボットなどを用いて自動化する取り組みが活発化しています。ロボットハンド/ロボットアームは技術の進歩とともに機能進化し、今では、繊細で臨機応変な対応が求められる作業にも幅広く適用されています。ここでは、ロボットハンド/ロボットアームを活用する意義とその利用シーン、今後の進化の方向性などについて解説します。
ロボットハンド/ロボットアームとは?
ロボットハンド/ロボットアームとは、人間の手と同様に、モノをつかむ・持ち上げる・運ぶ・支えるといった作業を実現する汎用ロボットの部位を指します。人間の手首より先、手のひらの機能を模した部分をロボットハンド、持つモノを取り回す腕の部分をロボットアームと呼びます。ロボットハンドは、エンドエフェクタ、グリッパーと呼ばれることもあります。基本的にロボットハンドとロボットアームは一組にして利用します。
人間の手は、極めて汎用性の高い機能を備えています。同じ手を使って、荷物をつかんで持ち上げたり、電源コンセントにケーブルプラグを挿し込んだり、紐を結んだりと、さまざまな作業をこなせます。ロボットハンド/ロボットアームは、そうした人間の手に近い汎用性を実現し、人に代わって、組み立て、塗装、検査、ピッキング(採集)など多様な作業を自動化します。
20世紀の半ばまで、自動化機械では決められた作業しかできませんでした。こうした専用機は、少品種大量生産型の工場では、生産性向上に絶大な威力を発揮します。しかし、製造ライン上で行う作業の内容が頻繁に変わる多品種少量生産(変種変量生産)に対応する工場では、思ったほどの効果が得られません。生産品目が変わる度に、新しい自動化機械の導入が必要になったり、変更後の生産技術に最適化されていないため機械の稼働率が落ちたりする可能性があるからです。
また、少品種大量生産型の工場にも、専用機では対応できず、人手でなければこなせなかった作業がたくさんあります。例えばコネクタにプラグを挿し込むといった一見単純な作業は、微妙な位置のズレなどに柔軟に対応して、壊さないように位置や力加減を調整しながら挿し込む必要があり、専用機による自動化が困難です。
人間の腕に相当するロボットアームは、人間同様関節を持ち、柔軟な動きができるようになっています。手・指先に相当するロボットハンドは、現時点では、適用する作業に合わせて最適な機能・構造のロボットハンドを選んで使い分ける必要があります。
ロボットハンドの種類と利用シーン
ロボットハンドには、持つモノのサイズや重さ、利用シーンに応じて、いくつかの種類があります。現在利用されているロボットハンドの種類とそれぞれの利用シーンを紹介します。
先述したように、ロボットハンド(エンドエフェクタ、グリッパーとも呼ばれます)の部分は、現時点では作業内容に応じて付け替えて利用することが一般的です。代表的なものを紹介します。
人間の指と同様に、電動機構でモノを挟んで把持する機能を持つのが、電動グリッパーです。把持するモノの大きさや重量、形状に応じて、指の本数や大きさ、開く幅などが異なるさまざまな種類があります。近年では、不定形のモノや壊れやすいモノなどをつかめる、柔らかいシリコン成形グリッパーもあります。
また、エア駆動によって指を動かすエアグリッパーと呼ばれるものもあります。モノを挟んで把持する点では電動グリッパーと同様ですが、機構が単純なため、小型・軽量化が可能です。
一方、空気の吸引力を利用して、モノを吸着し支える機能を持つのが、吸着グリッパーです。比較的軽いモノのピック&プレース(拾い上げと特定の位置までの搬送)や、パレタイジング(荷積み/荷降ろし)などで多く使われています。より大きく重いモノを支えるため、吸着口を増やしたグリッパーもあります。
電磁石でモノを吸着して支える機能を持つのがマグネットグリッパーです。適用対象が磁力に反応するモノに限定されるのですが、穴あきや凹凸などがある複雑な形状のモノに適用可能で、しかも比較的重たいモノも把持できます。グリッパー自体もコンパクトです。
ここまで紹介してきたロボットハンドは、モノを把持する機能を備えたものですが、ロボットアームの先端には、ハンドに加え特定機能の機器を取り付けて利用する場合もよくあります。例えば、カメラを取り付けて、撮影した映像を解析して自動検査に応用するような場合もあります。
また、ロボットハンドにはグリッパーのほかに、ねじ締め用のドライバを取り付けて組み立て作業に、塗料などを吐出するノズルを取り付けて塗装作業に利用するような特定用途に特化したハンドもあります。
ロボットアームの種類と利用シーン
ロボットアームにも、アーム長、最大可搬質量、関節の数(軸数)などが異なる、さまざまな種類があります。アーム長が長ければ作業範囲が広がります。さらに、最大可搬質量が大きければ、大型の荷物を扱うことができます。加えて、軸数が多ければアームの取り回しの自由度が高まり、より多様な利用シーンに適用可能です。
こうしたサイズや形状以外に、近年、利用シーンを格段に広げる機能を備えた新たなロボットアームが登場してきています。人と共存し、協働作業が可能な協働ロボットです。
これまでの産業用ロボットは、人が近くにいたとしても、アームが素早く動き続けて危険なため、人が近寄ることはできませんでした。厚生労働省が定めた労働安全衛生規則(安衛則)第150条の4(運転中の危険の防止)では、モータの定格出力が80Wを超える産業用ロボットでは、その周辺に柵または囲いを設けて、人から隔離した状態にしなければ使うことができないと規定されていました。
2013年12月、安衛則第150条の4による規制が緩和されました。国際標準化機構(ISO)の定める条件を満たし、接触しても危険が生じる恐れがなくなったと評価されたロボットは、人が働く場所で利用することが可能になったのです。こうした安全対策を施したロボットを協働ロボットと呼びます。
ロボットハンドとロボットアーム、それぞれの進化の方向性
ロボットハンドとロボットアームの技術は、いずれも継続的に進歩しています。適用可能な利用シーンが拡大するとともに、一層の生産性向上や製造業企業が抱える経営課題を解決する方向へと進化しています。代表的な動きを紹介します。
ロボットハンドにカメラを取り付ければ、バーコード/QRコード*/DataMatrixコードなど1D/2Dコードの読み取りや、カラー識別、OCRなどを行い、検査、計測、仕分け、位置決めなど、さまざまな工程での活用が可能になります。さらに取り込んだ映像データを解析して把持するモノの形状や状態を把握し、制御にフィードバックすることで、より臨機応変な作業が可能になりました。モノの形状や状態の解析技術は、ビッグデータ解析や人工知能(AI)など最新のITを応用することで、解析精度が日進月歩で向上しており、より高度な作業の自動化が可能になっています。
*QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です
また、ロボットハンドに力覚センサを搭載することで、モノを把持したり、ねじ締めなど繊細な作業をしたりする際の手応えをデータ化し、作業の制御へのフィードバックが可能になりました。これによって、イチゴのような柔らかく不定形なモノをつぶすことなく絶妙な力加減でつかむことや、ねじ締めやプラグの挿入など力加減の調節が求められる作業の品質を向上させることができます。
一方、ロボットアームでは、複数台のロボットアームや搬送ロボット、さらには製造装置やコンベアなど周辺設備と連携制御し、より複雑な作業を円滑にこなせるようになりました。人間は、2本の手の動きを連携動作させることで、コップを持ち上げてそこに飲み物を注いだり、紐を結んだりといった複雑な作業ができます。ロボットアーム同士を連携制御することでより複雑な作業の実行が可能になります。また、製造実行システム(MES)と連携することで、製造装置での処理状況に応じて、最適なタイミングで、ロボットアームによって部品や材料を補充するといったこともできるようになりました。これによって、個々の工程の生産性だけでなく、製造ライン全体の生産性向上が可能になりました。
こうしたロボットハンドやロボットアームの進化によって、これまで経験豊富な「匠」と呼ばれる熟練作業員しかできなかった、繊細で臨機応変な対応が求められる作業をロボットで自動化できるようになりました。現在、多くの業界・業種の製造業企業において、少子高齢化による人材不足や熟練作業員の技術継承が経営課題として顕在化してきています。高度な技能をロボットで再現可能になったことで、属人的な技能をシステムで自動化できるようになりました。

ロボットハンド/ロボットアームの活用による高度作業の自動化事例
ロボットハンド/ロボットアームは、既にさまざまな業界・業種の多種多様な利用シーンで活用されています。代表的な活用事例を紹介します。
2組の協働ロボットを活用し、複雑な部品の組立作業を自動化
複雑な構造の部品の組立を、2組の協働ロボットを活用して自動化し、サイクルタイムの短縮と生産品質の向上に成功した例です。この例では、クリップの把持に適したハンドを作成し、ロボットの内蔵カメラを使用して、取り付ける部品の位置を補正することで、温度による樹脂部品と金属部品の形状や強度の変化に臨機応変に対応。材料をストックする作業と、ストックしたワークにクリップを挿入する作業の工程で、2組のロボットを連携し並行稼働させました。これによって、従来2人で行っていた作業を1人でこなせるようになり、さらに人手作業によるミスを削減しました。その結果、サイクルタイムは人手で行っていた時の約50秒から約32秒に短縮し、生産品質の安定化も実現しました。
カメラでねじの位置を正確に認識し、ねじ締め工程の品質を均一化
協働ロボットにねじ締めに対応したロボットハンドを装着し、ねじ締め工程を自動化しました。内蔵しているカメラでねじ位置を認識することで、ドライバの位置を微調整しながら高精度なねじ締めを実現し、ばらつきや、締め忘れなどのミスをなくすことで生産品質の均一化に成功しました。 お役立ち資料:協調ロボット活用による組立工程ねじ締め作業の自動化
オムロンは6軸の協調ロボット*を提供しています。オムロンの協調ロボットは多種多様なパートナ企業製のロボットハンドを簡単に付け替えて利用可能です。電動グリッパー、吸着グリッパー、マグネットグリッパー、エアグリーパーに加え、ねじ締めのドライバやカメラ、さらには力覚センサも用意しています。また、広い視野角と高解像度の5Mピクセルカメラを標準搭載しており、キャリブレーションにかかる時間や手間を大幅に削減します。
オムロンでは各種ロボットに加え、周辺機器や安全機器などのさまざまな制御機器を取り揃えており、ライン全体の自動化をご支援します。
- *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています