省人化とは?省力化/少人化との違い、実現方法について解説
今後、加速する国内の少子高齢化や労働力人口減少といった社会課題を受け、製造業でも人材不足解消や作業効率向上への対応が急務となっています。そこでよく聞こえてくる言葉が、「省人化」です。この言葉は、最近のコロナ禍においても注目が集まっています。
省人化に似た言葉で「省力化」や「少人化」があります。いずれも「人にかかる作業負荷を減らす」ということは同じですが、それぞれ意味合いが異なります。ここでは、省人化の定義を確認した上で、企業における協働ロボット導入による省人化事例について紹介します。
「省力化」「省人化」「少人化」の意味と違い

「省力化」は、「作業負担の削減」を指しています。例えば「作業Aについてスカラロボットを導入して、作業を自動化することで作業者にかかる手間を減らし、作業にかかる時間を従来比で60%削減を実現する」などです。その効果を数値化する際には、「0.6人分の作業時間を削減」と置き換えて表現することはありますが、実際に作業にかかる人員を削減してコストダウンすることまでは示していません。

次に、「省人化」とは、作業を省力化するとともに、1作業にかかる作業者の人数も減らすことを指します。(省人化は「しょうじんか」と読みます)単純に人件費を削減するだけではなく、ある作業を省力化したことで手が空く人を、人手不足の他の工程や、人の思考を使う創造的活動にまわすこともできます。省人化は、生産における徹底的な無駄排除を目指す「トヨタ生産方式(TPS)」由来の言葉です。

「少人化」は、「しょうじんか」ではなく「しょうにんか」と読みます。こちらもTPS由来の言葉で、同方式の「ジャストインタイム(just in time、JIT:各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方)」と関連する考え方です。少人化では、受注数や生産量に応じて、作業者数を変動させながら一定の生産性を維持します。繁忙期だけ作業者数を増やし、閑散期には逆に減らすという運用が可能です。省人化の進化版とも言えます。
「人を減らす」という表現は、業務や体制の変更などにもつながり得るためセンシティブに捉えられがちです。そのため、最終的に「省人化」を目指すとしても、「省力化」という言葉を選ぶということもあります。確かに、人件費は原価圧迫の大きな要因ではありますが、人を多く減らしたことで逆に生産効率を損ない、現場から"働きがい"まで奪うことになると、本末転倒です。省人化は、あくまで「人を活かす」ための取り組みであるべきなのです。
省人化実現のカギは「ロボット」
製造や物流業における具体的な省人化方法としては、「人が行っていた作業を産業ロボットに代替させる」ということになります。産業用ロボットの中でも、省人化において有効なのが「協働ロボット(Collaborative Robot、コボット)」です。協働ロボットとは、人の代わりに工場や製造現場で組み立てやハンドリングなどの作業を行う産業用ロボットの一種です。一般的な産業用ロボットよりも小型で設置エリアが少なくて済み、リスクアセスメント(危険度評価)を実施すれば安全柵の設置が必要ないため、生産ラインの中で作業者のそばで稼働させ、人と共に作業をさせることが可能です。さらに、ロボット本体を必要な場所に移動したり、ハンドを付け替えてさまざまな工程に使用したりするなど、汎用性が高いことも利点です。
また、製造工程だけではなく搬送工程においてもロボットが導入されています。
搬送ロボットにはAGV(無人搬送車)と、AGVの進化型と言われるAMR(自律走行搬送ロボット)の2種類があり、AMRは人が作業している空間で協調して移動することが可能です。近年はAMRの登場により、人が行き来する通路での搬送など、搬送工程のさらなる省人化が可能となっています。

ロボット導入による省人化成功事例
ここでは、ロボットを用いた省人化事例を3つ紹介します。
プレス工程に協働ロボットを導入、一人分の省人化を実現

1社目は、精密プレス金型の設計・製造を行う、石川県の株式会社有川製作所様です。同社では、プレス加工における製品セットと取り出し作業を可動式の協働ロボット2台に代替させ、1人分の作業を省人化しました。
導入事例:株式会社有川製作所様 プレス機への製品セット・取り出し作業の自動化『ロボット導入で省人化と企業魅力度を向上』多品種少量生産の現場に協働ロボットを導入、省人化と出荷量の倍増を実現

2社目は、各種ラミネーター機械の製造やラミネート加工、カ-ボングラファイト製造などを担う、東京都の大成ラミネーター株式会社様です。同社では、人とロボットが協調してラミネート加工する装置を開発しました。
顧客の要望に応じて多種多様なラミネート加工を行う同社では、従来、作業者の技能に依存する体制になっており、人材不足の対処や増産対応をどうするかが課題になっていました。
自動化にあたっては多品種の変量生産への対応が必要であり、専用自動機で増産対応する投資にはリスクがありましたが、協働ロボットの導入によって高度技術の自動化や多品種生産に対応することが可能となりました。また、人ではなくても行える単純作業の負荷を軽減し、人の経験や知恵を生かす高度な作業に作業者が集中できるようになりました。その結果、1人分の作業の省人化と従来比2倍の出荷量を実現しています。
AMRの導入で、「部品供給搬送における」作業者負担を軽減

3社目は、神奈川県の三菱ふそうトラック・バス株式会社様です。こちらは、車両のシャーシ組付工程における部品搬送で、自律走行搬送ロボットを導入した事例です。
従来、同社の生産ラインでは、長いラインに400カ所以上ある部品ストックに作業者が巡回し、部品供給していました。また、補充場所の正確な把握が必要であることから、熟練者に業務が依存していました。そこで部品供給の作業や移動を自律走行搬送ロボットであるモバイルロボットに代替させて、業務効率を向上させるとともに、作業者にかかる負担も軽減しました。自律走行搬送ロボットは、走行経路を示すガイドテープが不要なため、運転ルートの指示変更も自在に行え、レイアウト変更にも柔軟に対応できます。
ロボット導入による省人化のポイント
ロボットは、決められた作業を素早く的確に行うことが得意です。また人のように集中力の低下や体調の影響、長時間作業などを心配する必要がありません。さらにロボットを日々稼働させることで、作業データ蓄積や可視化、分析も可能になります。
一方、ロボットが苦手とするのは、人が指先と五感を駆使する精緻な作業や、状況の変化に細やかに応じる柔軟性の高い作業などです。また協働ロボットは、安全性確保のためにスピードを抑えた仕様になっているため、生産効率の面も考慮しなければなりません。
そのため、ロボットの能力を理解した上で、ロボットに任せる部分と、従来通り人に任せる部分を見極めて、作業者とロボットがそれぞれの得意分野を担うことで、生産ライン全体の最適化を目指すことになります。
オムロンでは、産業用ロボット、協調ロボット*、自律走行搬送ロボットおよび周辺機器、プログラムの知見と併せて、製造業のことまで熟知したロボットSIerと連携し、最適なライン全体の自動化をご支援します。
- *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています