「力覚センサ」とは?ロボットによる匠の技の再現を実現

生産性の向上や人手不足の解消を目指し、ロボットを活用してこれまで人手に頼っていた作業を自動化する動きが活発化しています。しかし、感触を確かめながら行う作業は、人が持つ触力覚(触れた感触や抵抗感などを感じる能力)を機械で再現できなかったため、人手に頼るまま残されていました。ところが近年、力覚センサと呼ばれる触力覚を再現するセンシング技術が発達し、こうした作業の自動化が可能になりました。ここでは、生産ラインの自動化に向けて力覚センサを活用する意義とその利用シーンなどについて解説します。

力覚センサとは

力覚センサとは、さまざまな方向から加わる「力」や回転する力のモーメントである「トルク」を、XYZ方向それぞれの成分に分解し、電気信号に変えて検知する電子部品のことです。人間は、指先などの皮膚内部にある感覚受容器によって、押す、引っ張る、ねじるといった力を感じて、モノの硬さや質感、実体感を感じています。力覚センサは、センサを感覚受容器として物理的な力の量とその方向を検知し、人間の触力覚を再現します。

いま、ロボットに触力覚を付与する技術として、力覚センサの活用に注目が集まっています。

生産ライン上の人手で行う作業の中には、手探りで感触を確かめながら行う繊細な作業が多くあります。例えば、電子部品の柔らかい端子を、壊さないような力加減でコネクタに挿し込むといった、一見簡単な作業が該当します。

工場内には手探りで行う人手作業が意外と多い
工場内には手探りで行う人手作業が意外と多い

ロボットでは、カメラや画像認識技術を活用することで、視覚情報を頼りに、扱うモノの形や状態に応じた精密な作業ができるようになりました。ただし、材質の硬さといった外観から判断できないモノの特徴に応じて、制御条件の微調整することはできません。

ロボットハンドに力覚センサを取り付ければ、これまで人手に頼らざるを得なかった作業を自動化できるようになります。その適用先は、端子が柔らかい電子部品やコネクタの挿入、遊びが少ない嵌合、精密なねじ締め、バリ取り、微妙な力加減での研磨、ピッキングなど、極めて多様です。また、協働ロボットや搬送ロボットなどが人やモノに接触したことを検知するためにも利用できます。

さらに、力覚センサの検知精度や得た触力覚情報をロボットの精密制御にフィードバックすれば、経験豊富な職人の匠の技も自動化できる可能性があります。これによって、高品質な製品を低コストで生産できるようにもなります。例えば、ワーク表面のミクロン単位の凹凸を指で確かめながら切削するといった精密機械の部品加工が応用先として挙がります。

力覚センサの種類(検査方向による分類)

力覚センサには、1軸、3軸、6軸と、検出可能な力の方向が異なる3つの種類があります。もちろん、より多様な情報が得られる6軸力覚センサの方が、より多くの利用シーンに適用可能であり、汎用性は高くなります。しかし、センサの構造と検出した計測信号を処理する回路が複雑になるため、小型・軽量・薄型化やコストの面では不利になります。利用目的に応じて、最適な種類のセンサを選ぶことが重要です。

1軸、3軸、6軸の力覚センサで検知する情報
1軸、3軸、6軸の力覚センサで検知する情報

1軸力覚センサは、一方向の力の変化だけを検出します。荷重センサやロードセルとも呼ばれており、一方向に圧縮や引張する加工機などの制御や空気や油の圧力や流量を計測する場合などに使われています。

3軸力覚センサは、X、Y、Zの3軸方向に加わる力を分解して検出します。工場の中では、組立工程や搬送工程などに利用する産業用ロボットや協働ロボットなどに活用されています。比較的小型で組み込み易いことから、単軸ロボット、スカラロボット、小型の垂直多関節ロボットなどでの適用例が多い傾向があります。

6軸力覚センサは、X、Y、Zの3軸方向に加わる力だけでなく、3軸の周りのトルクも同時に検出します。検出する情報が多様である分、センサ自体の構造が複雑になるため、かつては精度に劣り、サイズが大きく、剛性に難がありました。しかし、現在ではMEMS技術と構造設計技術の進歩によって、3軸力覚センサと同等の高精度・小型化・高剛性を実現できるようになり、高い汎用性が求められるロボットハンドに広く応用されています。さらに、機械学習など情報分析の手法が進化したことで、検出したデータを高精度解析し、人間の触力覚に近い感覚を再現できるようにもなってきています。

力覚センサの種類(検知方式による分類)

力覚センサは、力の検出原理の異なる複数種類が用途に応じて使い分けられています。それぞれの検出原理の概略とメリット、デメリットを紹介します。

力覚センサの各方式の特徴
力覚センサの各方式の特徴

電気抵抗式(ひずみゲージ式)は、加わる引張力(または圧縮力)に応じて電気抵抗が変化する金属抵抗材料の性質を利用して、力の大きさを検出します。この方式は、小型で精度の高い力覚センサを実現できます。さらに比較的応答性も高いことから、力覚センサの方式として最もポピュラーな存在です。

静電容量式は、金属材料の導体を向かい合わせに配置したコンデンサの構造を持つ力覚センサです。力が加わり、導体間にひずみが生じて距離が変わることによる静電容量の変化を検知します。静電容量式は、構造が比較的簡単であり、低コスト化が容易です。精度や応答性も良好で、フィルム状にして小型化・薄型化することもできます。

圧電式は、水晶やPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)など、ひずみによって電圧が発生する圧電効果(ピエゾ効果)を示す材料の特性を利用する力覚センサです。応答性や小型化、コストに優れた方式です。その一方で、精度は電気抵抗式や静電容量式ほど高くはありません。

光学式は、計測対象となる場所に一定間隔で模様をマーキングしておき、力が加わった時に生じる模様の変化を光学センサで検出して、力の大きさを計算して求める方式です。最大のメリットは、計測対象にセンサを直接接触させなくても利用できる点です。ただし、精度、応答性、小型化、低コスト化のいずれにおいても他方式に比べれば劣ります。このため、非接触での計測のような特殊な用途で利用することになります。

「五感情報通信技術に関する調査研究会報告書」(総務省)(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/gokan_index.html)をもとに作成

力覚センサを選定する際のポイント

力覚センサの特性の各項目の間には、いくつかトレードオフの関係にあるものがあります。工場内の作業自動化に力覚センサを活用する際には、利用目的や利用シーン、触力覚機能を搭載するロボットの仕様に合わせて、最適な力覚センサを選択することが重要になります。選択時のチェックポイントとして、以下のような点が挙がります。

検出可能な情報の質:精度・応答性・ダイナミックレンジ

理想的な力覚センサは、微小な力から大きな力まで、すばやく、高精度に検知できるものだと言えます。

広範囲にわたる力やトルクを検出可能にするためには、ダイナミックレンジが大きなセンサを選択する必要があります。ただし、一般に、ダイナミックレンジと精度の間にはトレードオフの関係があります。このため、より高精度での検出が求められる場合には、検出対象で想定される力の大きさを見極めて、適切なセンサを選択する必要があります。精度に関しては、力やトルクが長時間にわたって繰り返し加えられても、安定した精度が得られることにも目を配る必要があります。

また、ロボットのリアルタイム制御に利用する触力覚情報を得るためには、突発的に力やトルクが加わった際にも、瞬時に高精度な情報が得られる高い応答性が求められます。センサの選択では、利用シーンに合った応答性が得られることを確認しておく必要があります。

堅牢性:剛性・耐久性・耐環境性

力覚センサは、力が加わることを前提として利用するデバイスです。このためデバイス自体がタフである(堅牢性が高い)必要があります。

まず、高い剛性が求められます。剛性とは、力が加わっても変形しにくいこと、言い換えれば、より大きな力やトルクを、より小さなセンサ変形量で検知できることを指します。ただし、微小な力を対象にする場合には、感度と剛性の間にはトレードオフの関係があります。用途によっては、剛性が低い、柔らかくしなやかに力を受け流すセンサの方が使い勝手がよい場合もあります。利用シーンを熟慮して適切なセンサを選ぶことが重要です。

また、温度・湿度・汚染・振動・衝撃・電磁波などの観点から、利用シーンで想定される環境下でも故障しないこと。さらには、常に正確な計測値が得られる安定性があるセンサを選択することも大切です。力覚センサの中には、周辺環境が変化しても、計測値を正しく補正する機構を備えたものもあります。

適用容易性:サイズ・重量

力覚センサは、ロボットハンドや協働ロボット、搬送ロボットの限られたスペースに搭載して利用します。このため、なるべく、小型・軽量であることが重要です。ただし、より高精度、多機能なセンサは、その分、サイズや重量が大きくなりがちであり、想定している利用シーンに適した最もバランスのよいものを選択する必要があります。

選択した力覚センサの潜在能力を引き出すための留意点

力覚センサを選んだ後には、その潜在能力を最大限まで引き出すための利用技術を考える必要があります。その際、留意すべき点は以下の2点です。

最適な治具やロボットハンドの形状

扱うモノから得られる触力覚情報は、それを支える治具やロボットハンドを介して、力覚センサに伝わります。このため、正確に情報が伝わるような形状や材質の治具などを選ぶ必要があります。この点は、取得した触力覚情報を基に、ロボットを適切に制御して、想定通りにモノを扱うためにも重要です。

データ分析と制御のアルゴリズム

力覚センサで検知可能な情報は、あくまでも対象物に掛かる力やトルクに過ぎず、力覚センサを取り付けただけでロボットに触力覚情報を付加できるわけではありません。ロボットを適切に動作させるには対象物に加わっている力やトルクを正確に算出し、ロボットを制御するためのプログラムが必要になります。力覚センサ活用の成功は、このアルゴリズム開発に掛かっているといっても過言ではありません。

力覚センサの活用例

既にロボットに力覚センサを導入し、従来人手に頼っていた作業を自動化して成功している企業が、世界中で数多く出てきています。適用事例は、電気機器や自動車、航空機の生産ラインでの組み立てやピック&プレイス、品質検査など、さらには研削や研磨、バリ取りといった部品加工などの高度な技能が求められる作業まで、多岐にわたります。

オムロンの協働ロボット「TMシリーズ」で利用可能な力覚センサ
オムロンの協働ロボット「TMシリーズ」で利用可能な力覚センサ

オムロンは協働ロボット、ロボットハンド、力覚センサ、およびその他周辺機器を取り揃えており、より高度な作業の自動化や、ライン全体の自動化をご支援します。