食品工場の自動化をロボットで実現!自動化を阻む課題や解決事例を解説

食品工場は、消費者のニーズや季節変動により多様な製品が求められること、また製品の特性から製造工程の自動化が難しいとされています。人手不足解消に向けて自動化の検討を進めても、さまざまな課題により自動化を断念してしまう企業が多く存在します。

ここでは、食品工場の自動化を阻む具体的な課題や、その課題を解決する産業用ロボットについて解説します。

食品工場の自動化を阻む課題

食品工場の自動化を阻む課題

農林水産省のレポート*によると、製造業の中でも、食品製造業は特に人手不足の傾向が顕著です。食品製造業の労働生産性は製造業平均の6割程度しかなく、すべての製造業の中でもっとも低くなっています。
*出典元:農林水産省「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」

人手不足の解消や労働生産性の改善に向けて、食品工場では作業の自動化が急務とされていますが、そこにはさまざまな課題が立ちはだかっています。

季節商材への対応・多品種少量生産の自動化の難しさ

大手の食品工場の場合には特定の製品を大量に生産しますが、大多数を占める中小の食品工場は多品種少量生産が中心です。
食品メーカは基本的に、季節ごとに新製品を多数発売します。また、クリスマスケーキや恵方巻など季節行事に関連した商品は特定の期間・日にちのみ生産数量が増加します。
生産量や作業工程に変更があるラインに産業用ロボットを導入している場合、変更の都度ロボットを動かすプログラム修正や、安全柵設置・再アセスメントが必要となります。多品種少量生産の現場では、このように手間と工数が発生することから、産業用ロボットによる自動化のメリットが小さくなってしまいます。

対象物が不定形

食品業界で扱う原料や製品は基本的に不定形です。例えば、野菜はその大きさや曲がり具合などの形状が異なるため、ロボットで把持する場合、一定の動きを繰り返すプログラムではうまく掴むことができません。また、製品を掴む際に力が入りすぎてしまい傷つけてしまう可能性があります。
不定形な食品の取り扱いをロボットで自動化するには、対象物の向きや大きさを認識し、正確につかむという高度な技術を搭載している必要があります。

プログラミングの難しさ

産業用ロボットを稼働させるには、ロボットを動作させるためのプログラミングを作成し、読み込ませる必要があります。生産品目変更のたびに、ロボットの動作を変えるためプログラムの修正作業が発生しますが、食品工場の大多数を占める中小工場が自社で技術者を確保し対応することは困難な場合が多いです。

徹底した衛生管理

食品を扱う設備やロボットは、他の製造業で用いられるものに比べ、徹底した衛生管理が必要とされます。設備部品や潤滑剤が食品へ混入してしまうと、大きな問題に繋がります。

食品工場の課題を解決する産業用ロボット

食品工場の課題を解決する産業用ロボット

以上のように、食品業界にロボットを導入する際には複数のハードルが存在します。 一方、これらの課題をクリアして活用されているロボットもあります。代表的なロボットとしてはパラレルリンクロボット、垂直多関節ロボットが挙げられます。
パラレルリンクロボット(パラレルロボット)は、最終出力先が同一の複数のアームを並列に制御する「パラレルリンクメカニズム」を採用したロボットです。構造がシンプルなため、メンテナンスしやすく、出力部を複数のアームで制御するため、高速動作を得意としています。
垂直多関節ロボットは、複数のアームを直列に制御する「シリアルリンク」を採用したロボットです。人間の腕の構造に似ているため、人作業の代替に向いており、比較的狭い設置面積に対応しています。
パラレルリンクロボットや垂直多関節ロボットは、アームの先端にロボットハンド(エンドエフェクタ)を取り付けて使用します。ロボットハンドにはさまざまな種類があり、用途に合わせ付け替えることで、人の手のような作業が可能です。また食品衛生法に適応したグリース使用の食品工場対応のロボットが開発されており、ロボット活用は食品業界においても作業者の代替手段として期待が集まっています。

食品工場における産業用ロボットの活用事例

食品工場での具体的な活用事例を紹介します。

パレット詰めをパラレルリンクロボットで自動化、人出不足を解消

板こんにゃく生産ラインでは、袋入り板こんにゃくのパレット詰め工程があります。扱う板こんにゃくの温度が高く、作業場の気温が高いことから作業者が集まらず、人手不足が課題でした。そこでパラレルリンクロボットを導入し、自動化を実現しました。
静電容量形センサで板こんにゃくの位置を確認し、パラレルリンクロボットがピッキングを行います。それをパレットに詰めるという工程を自動化することで、2人必要だった人員を1人に削減し、省人化を実現しています。

I-Webメンバーズ
導入事例:株式会社古野食品様 板こんにゃく生産ライン『パラレルロボットでパレット詰めを自動化』

衛生基準を満たしたロボットで冷凍食品の整列工程を自動化

袋詰めをする前の冷凍ワッフルを整列させる作業は、低温である労働環境と単調な業務のため人手不足が深刻な課題でした。2台のパラレルリンクロボットを採用することで、従来3名必要だった人員を1名に削減し、省人化を実現しています。
1台のパラレルリンクロボットで製品を同時に3つピックし、包装工程へ向かうプレース側コンベアに移動させます。同じ作業をもう1台のパラレルリンクロボットも行い、これらロボットの制御を1台のロボットコントローラで実現しました。

I-Webメンバーズ
導入事例:大手冷凍食品メーカ様 冷凍ワッフル生産ライン『パラレルロボットで包装前の食品整列工程を自動化』

過酷な環境での製造作業を自動化し省人化・省力化を実現

ケーキ焼き型へのクッキングシート挿入作業は、数人が手作業で行う必要があります。しかし、暑く過酷な環境で作業を行うため、人手不足が深刻な課題でした。そこで2台の垂直多関節ロボットを連動させ、さらに独自のロボットハンドを採用することで、作業者の支援と省力化を実現しています。
1台目のロボットが焼き型の側面用クッキングシートを巻き取り、型にセットします。次に2台目のロボットが底面用のクッキングシートをセットします。側面用と底面用で異なるロボットハンドを採用し、各用途に最適化することで効率的な作業を実現しました。

I-Webメンバーズ
導入事例:五洋食品産業株式会社様 冷凍ケーキ生産ライン『人手作業をロボットで置き換え!クッキングシート挿入の自動化』

ロボットビジョンとロボットの同期でケーキ製造の職人技を再現

従来は職人が行っていたモンブランのクリーム盛り付け工程を自動化するために、ロボットビジョンを搭載した垂直多関節ロボットとコンベアを組み合わせた製造ラインの構築に取り組んだ検証事例です。
ロボットビジョンの演算結果、コンベアの速度、ワークの位置をコントローラに送ることで、コンベア速度がばらついても、ランダムな配置のケーキを追従しながらの盛り付け作業を実現しました。熟練した作業者の動きを再現した動作パターンを再現することで、タクトタイムを維持しつつ品質を確保しました。

導入事例:五洋食品産業株式会社様 ケーキ製造 クリーム盛付け作業自動化『共創での実機検証により品質テスト合格。高付加価値な作業への自動化領域拡大』

番重搬送の自動化を協働ロボットとAMRで実現

番重搬送の工程は、中食を番重から出し入れするピッキング作業と、その番重を搬送する工程に分けられます。中食を番重に詰める工程は、協働ロボットで自動化できます。協働ロボットはロボット本体を移動させることが可能であり、ティーチングも容易で、1台でピッキングと番重詰め両方の作業を自動化できます。また、番重の搬送は、自律走行搬送ロボットであるAMRが効果的です。AMRは作業者や障害物を避けて搬送できるため、作業者がいる環境での搬送自動化を実現できます。また、ライン敷設不要で搬送工程の変更にも柔軟に対応できます。

FOOMA JAPAN 2019出展レポート『人と機械の新しい協調で食品製造現場の労働生産性と品質を革新』

ここまで5つの事例を紹介しました。このように、食品工場はロボットの活用で自動化が進められていますが、複雑な作業の自動化を実現するためには、ロボットだけでなく、カメラ、ロボットハンドなどの周辺機器をシームレスに統合制御する必要があります。
ロボットと周辺機器を統合制御することで、複雑な工程がシームレスに繋がり、作業精度やタクトタイムの短縮を実現できます。
オムロンは、産業用ロボット、協働ロボット*、自律走行搬送ロボットに加え、周辺機器や安全機器などのさまざまな制御機器を取り揃えており、ライン全体の自動化をご支援します。

  • *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています