自動車組み立て工場で活躍するロボットとは?
自動車は、多種多様な部品・材料を組み合わせて作られています。1台当たりの構成部品は2万点~3万点にも及びます。自動車工場では、サプライチェーンを通じてそれぞれの部品・材料を調達し、高度に管理された工程を経て自動車を作り上げます。さらに自動車の製造は、求められる精度・品質が段違いに高いことも特徴です。加えて近年では、従来のエンジン車とは内部構造が異なる電気自動車(EV)などの製造への対応が求められ、工場内の作業がさらに多様化しつつあります。こうした難易度が高い製品を、高い生産性・高品質・低コストで製造するため、工場内ではさまざまな作業にロボットが導入されています。
ここでは、自動車の組み立て工場を中心に、活躍するロボットの種類、用途とその利用効果について解説いたします。
自動車産業は、ロボットなど生産技術革新の推進者
工場の生産性向上は、企業のビジネス競争力の強化に直結する最優先で取り組むべき課題です。特に、自動車産業は基幹産業であることから、生産技術の進歩に対する注目度も高く、自動車産業には最先端の生産技術が真っ先に導入される傾向にあります。例えば、コンベア式の流れ生産ラインの導入によって近代工業への扉を開いたのは、フォード・モーターでした。
また、部品・材料のJust in Time(JIT)での調達を可能にするカンバン方式の生産管理を考案・実践したのはトヨタ自動車です。これらの生産技術は、自動車ビジネスにイノベーションを起こしただけでなく、他業界も含めた工場のあり方を一変させるほどのインパクトがありました。

そして今、自動車工場では、生産ライン上の人手作業を、ロボットに置き換えて自動化する取り組みが積極的に進められています。
自動車工場の中には、ワークの個体差や生産計画の変化などに応じて、臨機応変に対応すべき作業がたくさんあります。こうした作業は、機械化による自動化が困難であり、人手に頼る必要がありました。自動車産業では、コンベア式の流れ生産ラインの導入によって生産性が劇的に高まりましたが、一つひとつの工程での作業が単調な繰り返しであり、作業者がこうした作業を長時間にわたって続ければ、作業効率や製品品質の低下を招きます。ロボットの導入は、このような単調な作業から人を解放し、高効率・高品質での安定生産を追求するために拡大しています。
人と共存できる協働ロボットの活用が必須に
ロボットの機能や性能がどんなに高度に進化しても、人手に頼らなければならない作業が残っていました。部品の微妙な位置合わせや、取り付けの力加減などが求められる精密なねじ締めなどは、人手作業の代表例です。自動車産業の中でも、ロボットの導入による自動化に積極的なテスラは、より生産性の高いラインを構築するため、一度ロボットを導入して自動化した工程を人手作業に戻したことがありました。この時、同社CEOのイーロン・マスク氏は「人間の能力を過小評価していた。過度の自動化は誤りだった」とツイートし、自動車産業の話題となりました。
人手に頼った方がよい作業は、無理に人手作業を自動化するのではなく、作業する人をアシストして作業効率を高め、作業ばらつきを抑える仕組みを導入した方が得策です。こうした要求に応える新しいタイプのロボットが、協働ロボットです。これまでの産業用ロボットは、動作中に周辺の人やモノと接触して事故を起こすことがないように、安全柵で周囲を囲み、人から隔離して使っていました。これに対し、協働ロボットは、安全性を確保するための機能を搭載することで、安全柵を用意しなくても人と同じ現場に共存可能で、人と連携、分業しながら作業できます。
生産ライン上の作業を、自動化作業と人手作業に明確に区分することができれば、産業用ロボットによる自動化は比較的容易です。しかし、実際の生産ラインの中には、双方の作業が細かく入り混じったり、同時並行で行ったりするケースも多くあります。人が作業する場所と産業用ロボットを置く場所を分離すると、ワークを安全柵越しに何度も行き来させる無駄が発生し、生産ライン全体の効率が低下します。協働ロボットを活用すれば、こうした無駄がなくなります。人手作業に付随し、ロボットでも実行可能で、単調な繰り返し作業や重たいモノを持つ作業を代替することで、人の能力を最大限まで拡張することが可能になります。

少品種大量から変種変量、そしてマスカスタマイゼーションへ
自動車産業の黎明期の自動車工場では、同じ車種を同一ラインで作る典型的な少品種大量生産を行っていました。コンベア式の流れ作業ラインは、それに最も適した生産体制だったと言えます。ところが、自動車が広く普及してくると、消費者の嗜好に合った多様な車種の生産が求められるようになりました。そして、市場で求められる車種を、求められる台数だけタイムリーに生産できる変種変量生産への対応が必須になったのです。JITでの部品・材料の調達に対応したカンバン方式は、こうした要求に応えるための生産方式として誕生しました。
そして今、自動車産業では、マスカスタマイゼーションと呼ばれる新たな生産形態に対応する生産体制の構築が求められるようになっています。マスカスタマイゼーションとは、消費者が求める仕様の自動車を、大量かつ効率的に、受注生産できる体制のことを指します。一般に、カスタム品を受注生産すると、生産コストは高くなり、納期も長くなってしまいます。マスカスタマイゼーションでは、受注、仕様設計、生産などの作業をデジタル化し、受注や設計管理、生産管理などの情報システムを連動させながら、受注から生産までを一括管理することで、低コスト化と短納期化の実現を目指します。
このため、これら情報システムと、工場内の設備制御システムを密に連携させながら、産業用ロボットや協働ロボット、さらには部品・材料を搬送する搬送ロボットなどの運用を管理・制御する必要が出てきます。これからの自動車工場で活躍するロボットは、情報システムを介して、工場内の各装置・設備と連携動作できる能力の搭載が必要条件になることでしょう。

自動車工場の工程とロボット活用シーン(前工程)
自動車工場の工程は、大きく、「プレス工程」「溶接工程」「塗装工程」「組立工程」「検査工程」の5つに分類できます。ここからは、各工程の中で活用されているロボットを紹介します。

プレス工程
1台の自動車には、プレス加工した鋼板が大小合わせて100枚以上使われており、プレス工程は自動車組み立て工場だけでなく、ボディなどを構成する個々の部品を製造する工場でも行われています。鋼板を加工してボディの部品を作るプレス工程は、重たいワークを扱う重労働で、大きな荷重がかかるプレス機を扱う危険な工程です。このため、なるべく人が関わらないように工程を工夫する必要があります。このため、プレス機への鋼板の装填(マシンテンディング)や工程間の搬送などにはロボットが用いられるようになりました。
例えば、複数のプレス工程を経て複雑な形状の部品を作る場合などでは、プレスした仕掛り品の取り出しと、次のプレス工程への移送、プレス機への装填を連続的に行うロボットが使われています。その際には、動きの自由度が高い多関節ロボットを利用し、その動作をプレス機の動きと連携制御することで、生産性を劇的に向上させることが可能になります。
さらに近年では、マスカスタマイゼーションに対応する将来技術として、専用の金型ではなく、汎用的なロボットを使ってプレス成形する技術(インクリメンタル成形)も開発されています。既に、ボディパネルなどの加工への応用が検討されています。
溶接工程
プレス加工して作った部品は、溶接工程で組み合わせてつなぎ、完成品に近づけていきます。1台の自動車には、3000~6000の溶接箇所があります。 溶接工程は高い精度と作業品質が求められる作業のため、かつては高度なスキルを持つ人手作業でした。しかし、今ではほとんどの溶接は、ロボットを使って行われています。
自動車工場で活用されているロボットは、主に取り回しに優れた垂直多関節ロボットです。コンベア方式の流れ作業ライン上にロボットアームに溶接機を取り付けたロボットを複数台並べ、1台のロボットで複数箇所の溶接を受け持ち、コンベアを動かしながら多くの溶接箇所を流れ作業でつないでいきます。ロボットを導入することで、作業のスループットの向上や24時間操業が実現し、生産性は格段に向上。溶接部の品質も安定します。さらに、作業中に発生するガスや光による健康被害から作業員を守ることができる点も導入効果として挙げられます。
塗装工程
溶接を終えたボディは、洗浄してホコリや油などを除去した後、塗装工程に移されます。塗装工程まで進むと、ワークであるボティは、人が扱えないほど大きく、重い状態に組み上がっています。このため、生産性を高めるためには、ロボット塗装が欠かせません。
塗装工程では、主に垂直多関節ロボットが使われています。複数台のロボットを同時稼働させることで、ボディ全体を隅々まで短時間で塗装します。ロボットで自動化することにより、塗装工程の生産性向上と品質の安定化が実現できます。また、塗料には有害物質が含まれていることもあるため、作業者の安全確保の観点からもロボットによる自動化が不可欠になっています。
自動車工場の工程とロボット活用シーン(後工程)
現在の自動車工場では、前工程と呼ばれるプレス工程、溶接工程、塗装工程までは、高速動作、大出力の産業用ロボットの導入が進んでいます。これに対し、後工程と呼ばれる組立工程と検査工程では、まだまだ多くの人手作業が残っています。自動車産業では、これらの自動化が重要課題になっています。
組立工程
塗装が完了したボディに、エアコンや各種メータ、配線、エンジン、タイヤ、トランスミッション、電気自動車ならばインバータ、モータ、バッテリなどを組み付けていきます。組立工程では、微妙な位置やねじ締めのような力加減の調整が求められる作業が多いこと、顧客の注文内容に応じて都度部品の段取り替えが必要なことから、作業の柔軟性と品質維持のために、人手作業が多く残っています。
組立工程でも生産性を高めるため、ロボットを活用する事例が増えてきています。人手作業が必ずあるため、人から隔離して利用する必要がある産業用ロボットは利用できず、人との安全な共存が可能な協働ロボットを活用します。そして、人と協働ロボットが、役割分担をしながら作業効率を高めています。

また、組立工程では、電装品などをJustInTime(JIT)で現場に届ける搬送ロボットも活用されています。自動車の組み立て工場だけでなく、電装品やエンジン用部品などを組み立てる部品工場でも、同様に搬送ロボットを活用しています。
導入事例:三菱ふそうトラック・バス株式会社様『自動搬送ロボットでシャーシ組付工程の部品搬送自動化』 メディア記事:アイシン・エィ・ダブリュ株式会社様 『アイシン・エィ・ダブリュが目指す理想像、"人が活躍"のスマート工場とは』 株式会社椿本チエイン様『部品の自動搬送と在庫管理まで一貫したシステムの構築により、生産効率の向上を実現』検査工程
組立工程を終えた完成車は、最後に検査工程に移されます。この工程では、ドラムと呼ばれる筒の上で完成車を実際に走らせてエンジン、インバータ、モータなどを検査したり、車体に水を掛けて水漏れがないことを確認したりします。1台当たり1500~2000項目の検査を実施しており、可能な限り自動化したい工程です。ただし現状では、属人的なスキルや感覚を頼りにした検査がほとんどです。
自動車に限らず、工業製品には一定の個体差が生じます。このため、検査基準が緩ければ不良品を見逃してしまい、厳しすぎると合格品がなくなってしまいます。これまでは、検査員の経験に裏打ちされたさじ加減が欠かせませんでした。検査工程を自動化する際には、こうした熟練検査員のスキルや感覚の再現が重要です。ただし、現在では、機械学習やディープラーニング(深層学習)など高度な情報処理技術を利用して、人の感覚を高精度に再現できるようになりました。既に自動車部品の製造では、官能検査などに画像認識機能を備えたロボットが利用されています。
ここでは、人と安全に共存できる協働ロボットが活躍しています。さらに、人工知能(AI)を活用して官能検査を自動化する技術も活用できるようになりました。協働ロボットや官能検査の自動化技術は、部品工場でも導入されるようになりました。
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- *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています