多関節ロボットの基本を解説。基礎知識、種類、活用例まで

日本は「ロボット大国」とも言われるほど、産業用ロボット市場で世界的なシェアを持つメーカが多くあります。なかでも多関節ロボットは、自動車やデジタル機器、食品、医薬など、さまざまな生産現場の作業を自動化する目的で導入されています。国内では1980年代から自動車産業を中心に多関節ロボットによるFA化が進み、製造業をけん引してきました。ここでは、多関節ロボットについて、基本から活用例まで分かりやすく解説します。

多関節ロボットとは

多関節ロボットは、産業用ロボットの一種です。産業用ロボットとは、<産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定または移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御され、再プログラム可能な多用途マニピュレータ*>と定義されますが、まさにマニピュレータのように関節構造を有し、人の腕のように自由にアームを動かせるロボットが多関節ロボットです。

  • *JIS0134 産業用マニピュレーティングロボット用語

多関節ロボットは、形態や軸数によって以下のように分類されます。

垂直多関節ロボット

産業用ロボットというと、この「垂直多関節ロボット」をイメージすることが多いかもしれません。人間の腕のような形状をしている産業用ロボットで、ロボットアームとも呼ばれ、搬送、加工、溶接、塗装、組立、検査など、多様な用途で利用されています。水平方向に回転するベース部に、鉛直方向に動く複数の軸を持つアームが取り付けてあります。作業範囲が広く、動きの自由度も大きいため汎用性も高く、多様な作業に対応します。軸数は4~6軸が標準ですが、7軸タイプもあります。軸数が多い分、姿勢や動作の範囲が広がりますが、制御は難しくなります。その他の方式に比べ、アームが大きく重いため、機械剛性は低くなります。高速動作させるとアーム先端が揺れることや、オーバシュート(目標点を行き過ぎること)しやすくなります。

また、少し変わった形態としては「パラレルリンクロボット」があります。このロボットは、天吊りの複数(多くは3本)のアームを並列につないで1つのアームを構成するパラレルリンク構造を採用しており、複数のアームで1点のアーム先端を制御するため、非常に高速な動作が可能です。ただし作業範囲はやや狭く、重量物は扱えません。主に小さな部品や食品などの超高速ピッキングに特化した用途で使われています。

水平多関節ロボット(スカラロボット)

水平方向にアームが動作する産業用ロボットです。このロボットの代名詞といえば、山梨大学の故・牧野洋教授が開発した「SCARA(スカラ)ロボット」(Selective Compliance Assembly Robot Arm」)です。水平多関節ロボットは、3~4軸構成のコンパクトな構造のため、省スペースに設置できます。上下方向の剛性が高く、水平方向では柔らかさを持つため、部品の押し込み作業やピックアンドプレースで活躍します。一方で、垂直多関節ロボットに比べ動作方向がXYZの平面上となるため、斜め方向への動作などは行えません。

協働ロボット

また最近では多関節ロボットの1種として「協働ロボット」というジャンルも登場しています。協働ロボットは、文字通り「人と"協"調して"働"く」ロボットです。オムロンでは「人と機械の新しい協調」を実現する意味で「協調ロボット」と呼んでいます。協働ロボットは、人がそばにいるときは安全な速度と力で動作し、万が一、人と接触した場合は安全に停止します。一方、人がいない場合には、産業用ロボットに近い速度で動作でき、厚生労働省が定めるリスクアセスメント(労働安全衛生法第28条の3による危険性等の調査)を実施したうえで、安全柵の設置は不要です。

協働ロボットの多くは、移動型の台車に多関節ロボットが載った省スペース構造で、既存生産ラインを変更することなく、必要なラインにロボットを移動できます。アーム手先部のエンドエフェクタを交換することで、さまざまな作業に対応します。機体自体もコンパクトかつ軽量であるため、限られた作業空間や小規模な生産ラインにも導入できます。
なお、多関節ロボットを動かすためには、コントローラやサーボアンプ(ドライバ)、ソフトウェア、安全システム、ティーチングペンダント(ロボットの動作を記憶させる入力装置)などが必要です。これらに加えて各種センサのコントローラを用意する場合もあります。

多関節ロボットのメリットとデメリット

多関節ロボットは、人手作業と比べると、どのような点で優れているのでしょうか。まず1つ目は、多関節ロボットに限りませんが、同じ動作を繰り返し行う再現性です。また、動作や作業品質にばらつきが少ないことから、結果として品質のムラも少なく量産に適しています。
2つ目はプログラムの書き換えが可能なため、生産品目の切り替えや複数種の動作を同じ設備のまま行なえる柔軟性があります。こういった多関節ロボットによる生産性の向上が、結果的に省人化や省力化につながるため、労働力人口不足の解消にも期待されています。

高度なオートメーション技術にロボット技術を融合
高度なオートメーション技術にロボット技術を融合

3つ目は、多関節ロボット本体の位置決め精度、繰り返し精度の向上と共に、ロボットビジョン(カメラ)や力覚センサによる補正動作が可能となり、繊細な作業に対応できる点です。これまでは対応が難しかった高度な作業も、最近では代替できてしまいます。たとえば手術ロボットは、遠隔操作によって針の穴に糸を通すようなことまで実現しています。

多関節ロボットには数多くのメリットがありますが、その一方でデメリットもあります。一番の問題は初期コストがかかる点です。またロボットを導入すれば、運用のための人材が必要です。メンテナンスやチョコ停や故障などのトラブル対応もしなければなりません。また、多関節ロボットは工程によっては人の作業に比べ、動作速度が遅くなる場合もあります。作業内容、生産能力に合わせたロボットの選定が必要となります。

多関節ロボットの活用シーンや事例

多関節ロボットは高い汎用性と柔軟性があり、多様なシーンで利用されています。

人と機械が自在に協調する知能化セルラインの一部
人と機械が自在に協調する知能化セルラインの一部。協働ロボットによって、人と機械のシームレスな連携が可能。また知能化されたロボットで人を支援したり、自在に協調したりする現場を実現できる。

多関節ロボットの利用シーンは、自動車業界での溶接、塗装、組立、部品製造業での工作機の治具交換、バリ取り・研磨、電子部品・機器製造業におけるピッキング、基板への実装、はんだ付け、組立など、非常に多岐にわたります。

自動機への材料投入と取り出し(マシンテンディング)工程の自動化

生産ラインや加工機、検査機などの自動機への材料投入、取り出し一連の作業を、協働ロボットに任せることが可能です。加工機の例では、部品をトレイから取り上げて把持したり、部品を取り出すだけでなく、工程のなかで装置の扉を開けたり、閉じたりすることもできます。人手不足の解消、単純作業からの解放、労災リスク軽減といった効果が狙えます。

お役立ち資料:協調ロボットによる工作機へのワーク投入と取り出し工程の自動化

画像センサ(カメラ)を利用して、医薬品の6面外観検査を自動化

直多関節ロボットと画像センサを組み合わせ、多面外観検査で不良品出荷を大幅に低減できます。ベルトコンベアに取り付けたトリガセンサによって、流れてくる製品の位置を検出し、その位置情報をロボット側へ伝えます。ロボットは製品を把持し、製品の側面・底面など5面を高速に回転させながら、1台目の固定カメラで検査します。次に製品をコンベアに戻したのち、2台目の俯瞰カメラで製品の上面を検査します。

I-Webメンバーズ
導入事例:医療機器メーカ様『垂直多関節ロボットで多面外観検査の自動化を実現』

ここまで紹介してきたように、工場に多関節ロボットを導入することによって、生産工程の省人化だけでなく、人為ミスの削減、高速・高精度な作業による生産性のアップなど、さまざまなメリットを得られることが分かります。ただし工場や生産ラインの最適化には、多関節ロボット以外のさまざまな機器との連携も不可欠です。製品を送るフィーダ、製品の種類の識別、向きや位置を把握する各種センサやカメラ、それらを制御するソフトウェアなど、多くの機器との共同歩調によって、最適化が実現します。

オムロンでは、協働ロボット*、自律走行搬送ロボット(AMR)に加え、周辺機器や安全機器などのさまざまな制御機器を取り揃えており、ライン全体の自動化をご支援します。

  • *オムロンは、「人と機械の新しい協調」を実現するロボットとして、協働ロボットの商品名称を「協調ロボット」としています