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10.金型表面温度の計測に関する一検討

今村 隆司、山根 恭二

弊社では「簡単で高品質な温度コントロール」を目指して製品・技術の開発を行っている。1) その中の「傾斜温度制御TM」2)については、射出成形金型の温度管理への適用例として投稿した4)~5)。今回は続編として温度計測に関する検討内容を紹介する。 主な内容は下記の通りである。

  • サーモグラフィの活用(温度分布の把握)。
  • 被覆熱電対の活用(表面計測への適用例)。
  • 計測精度を簡易に確認する方法。

1.金型の温度分布

傾斜温度制御では多点の温度制御を行う。この際に温度調節計には制御したい箇所の温度を取り込む必要がある。またヒータの配置に関して、大きく偏りがあると均一な加熱特性を得られない。このような温度分布の様子を計測するのに便利なのがサーモグラフィと呼ばれる装置(熱画像計測装置あるいは、サーモビューアとも呼ぶ)である。温度の分布を色の違いで表示する一種のカメラでご存じの方も多いと思われる。

2.サーモグラフィについて

詳細な使用方法に関しては各装置の取り扱い説明書をご覧頂きたいが、今回観測した金型表面の様な金属面に関しては、放射率が低いため、計測誤差が大きくなるという問題がある。放射率というのは材料固有の赤外線放出率の事である。サーモグラフィーでは計測対象が放つ赤外線を計測してこれを温度に換算しているのであるが、この換算に放射率が使われる。放射率を調整できる装置がほとんどであるが、それなりのノウハウを必要とする。
ここではそれ以外のより簡単な方法として黒体スプレーを使う方法をご紹介する。

2-1.黒体スプレー

黒体スプレーとは 放射率が既知のもの(大抵は、0.95~0.98)を塗料として使用しているスプレーで、これを塗布することで計測対象の表面の放射率を変えてしまう目的を持つ。写真1は金型に見立てたステンレス板の側面に黒体スプレーを塗布した様子である。スプレーは右側面のみ塗布している。また、板の上部にはヒータを取付けている。上面・前面にはスプレーを塗布していない。
写真2は同じアングルから捉えた熱画像である。表面付近はヒータからの熱が分布している様子が見て取れるが、前面・上面は低い温度として表示されている。

写真1 黒体スプレーを塗布した様子
写真1 黒体スプレーを塗布した様子

写真2 サーモグラフィの画像
写真2 サーモグラフィの画像

2-2.金型の温度分布

黒体スプレーとサーモグラフィの組み合わせにより、計測したいくつかの事例を紹介する。

図1 計測システム
図1 計測システム

(1)計測システム
図1は使用する計測システムである。プレート式のヒータをステンレス鋼の板に取付け、これに温度調節器を取付けてある。

写真3 中央のヒータを加熱
写真3 中央のヒータを加熱

写真4 右のヒータを加熱
写真4 右のヒータを加熱

(2)ヒータ位置による温度分布の違い
図1のシステムで、中央のヒータを加熱した時の温度分布の様子が写真3である。ヒータ付近は温度が高く、これが左右均等に広がっていく様子が分かる。写真4は右のヒータを加熱した際の様子である。こちらもヒータ付近から温度が広がっているが、左右が不均一であり、ヒータの中心よりも板の側面、つまりステンレスと空気の境目に添って熱がよく流れている様子が分かる。中央のヒータが両側のヒータから煽られるため中央部分がよく加熱すると思い込んでしまうが、金型の端に取付けたヒータの熱拡散の方が大きい場合がある。これは金型から空気中に逃げるより、金属内を伝播する方が伝熱性が良いために発生する。
計測対象が複数の熱伝導率を持つ材質で構成されているときには温度の分布は複雑になるので、一度この様な方法で分布の様子を確認することをお勧めする。

(3)ヒータの取付方法による温度分布の違い
今回使用しているのはマイカヒータと呼ばれるヒータである。マイカヒータは、図2に示すようにマイカのプレートに電熱線を巻き付けたものである。ねじなどで取付けられるので、取扱いが容易である。
しかしながら、これを小型化するとヒータの加熱特性が偏るという問題がある。図3に示す通り、ねじ穴の上は電熱線を巻くことができない。このためにそれを避けて電熱線を巻く必要がある。この結果、接触面上で発熱が不均一となる。写真5、6はマイカヒータを取付け、加熱した際の様子である。写真6は写真5の画像に対して、ある同じ温度帯を黒色で表示する処理を行った画像である。左に偏って拡散していて、左右が不均衡になっているのがわかる。
これを改善する方法として、ヒータと金型との間に拡散板(熱を拡散するための金属板)を取付け、計測を行ったのが写真7、8である。写真5、6に比べて、左右対称に分布している様子がわかる。

図2 マイカヒータの構造
図2 マイカヒータの構造

図3 ねじ穴の様子
図3 ねじ穴の様子

写真6 写真5の同じ温度帯を黒で表示
写真6 写真5の同じ温度帯を黒で表示

写真5 加熱の様子
写真5 加熱の様子

写真8 写真7の同じ温度帯を黒で表示
写真8 写真7の同じ温度帯を黒で表示

写真7 加熱の様子(拡散板付き)
写真7 加熱の様子(拡散板付き)

3.測温体について

サーモグラフィの画像は一覧性に優れ熱の分布を把握するのに便利であるがカメラの位置精度を確保するために、精度良くカメラを設置する必要がある。位置精度の確保はそれなりのノウハウが必要とされるので、熱分布をある程度把握し、計測箇所の見当を付けた後は、測温体を使用するのが簡便である。ここでは面を細かく計測する細いタイプの測温体をご紹介する。

3-1.測温体の種類

測温体は大きく分けて、抵抗体と熱電対があるが今回使用したものは最もよく使われるKタイプ(クロメル・アルメル)と呼ばれる熱電対である。熱電対は多種有り、精度・温度域などより選定を行う。これについてはここでは割愛し、金型表面への取付を行うために有効な方法について述べる。

3-2.形状

熱電対を多数取付けるためにはなるべく細いタイプが望ましい。熱電対にはシースと呼ばれるタイプと、被覆線と呼ばれるタイプがある。それぞれ、図4、5にその構造を示す。シース管は管材にはステンレスなどの金属材料を使用するため、熱電対の素線が保護される。その反面その剛性のため曲げにくいという問題がある。表面の分布を試験的に観測するには取り扱いし易い被覆線をお勧めする。今回の事例では外径1.5mmの被覆線(楕円形状で、短方向は0.8mm)を使用している。熱電対の素線径は0.2mmである。

図5 被覆線
図5 被覆線

図4 シースタイプ
図4 シースタイプ

3-3.被覆線の取付

図6 被覆線の取付
図6 被覆線の取付

試験的な計測用途であれば、被覆線の取付けは図6のようにアルミなどの耐熱シールで貼付ければ良い。注意点としては、必ず先端部分(Kタイプの場合、クロメルとアルメルの接合箇所)を対象物に十分接触させることである。熱電対の計測原理である熱起電力はこの接合部分で発生するため、接触が不十分だったり意図せぬ箇所に接触していたりすると、計測誤差の要因となる。

3-4.金型への取付

図7 溝を掘り埋め込む方法
図7 溝を掘り埋め込む方法

シールで被覆線を試験的に取付けて計測箇所が確定すれば、今度は本格的に金型への取付けを検討していく。金型は可動型と固定型があるが、キャビティと呼ばれる製品ができる面同士は接触し、型締めの圧力が掛かるのでシールでの取付けはできない。一つの方法として、金型表面に溝を掘り、そこに埋め込む方法がある(図7)。金型の中に穴を空けて差し込む方法に比べると金型の加工も容易であるし、センサの取付・取外しも容易にできる。特に、今回提案しているような細いタイプのセンサでは有効な方法であると考える。

3-5.被覆線の問題点と改良案

図8 被覆線の問題
図8 被覆線の問題

前述の取付方法を行う場合、提案している被覆熱電対では一点問題がある。図8は溝を掘り、被覆線を取付けたところを上から見た図であるが、被覆線の先端は一般に素線同士を溶接してあるだけであり、細い。今回使用しているのはφ1.5mmの被覆線であるが、先端は素線部分がむき出しであるため、溝幅に比べて、接触箇所が小さく不安定になるという問題がある。成形機はショット毎の振動などがあるため、接触信頼性を高めておく必要がある。

図9 被覆線の改良案
図9 被覆線の改良案

(1)改良案
上記の問題を解決するための方法をいくつかご紹介する。図9に示すのは先端部分にバネを取付ける方法と、真鍮などのチップを取付ける方法である。溝に取付けたとき、先端部分に柔軟性があれば接触面積を大きく取れる。また被覆線だけの構造では溝に固定することができない。真鍮チップなどの先端補材はこの役割を果たす。

3-6.改良案の検証

図9の2種類に関して、特性検証を行った。

(1)熱応答性の比較
先端部分の熱容量が被覆線だけの場合とチップ付きとの場合とでどの程度変わるかテストを行った。図10がそのシステムで、ヒータ表面に被覆線と被覆線にチップを取り付けたセンサを貼付けて昇温試験を行った。ヒータ表面は金型表面に比べて熱応答が速いため、センサはヒータ表面に取付けている。また、チップ付とばね付ではチップ付の方が熱容量が大きいと考えられるので、被覆線とチップ付を比較した。

図10 熱応答性のテストシステム
図10 熱応答性のテストシステム

(2)応答性テスト結果
図11はテスト結果である。チップ付のセンサがやや遅れて立ち上がっている。ただし、センサには個体差があるのと、ヒータ表面は場所により微妙に温度が異なるので、温度の微分値を調べてみた。図12がその結果である。微分値は単純に 1 秒間に何度温度が変化しているか、一定時間の差分により計算している。図12のなだらかな登り勾配の線は、ヒータの温度を被覆線で計測した結果で、その他の2本が被覆線とチップ付の微分値の推移である。グラフより、両者は1℃/秒以上の差が無いことが分かる。

図11 被覆線とチップ付の応答結果
図11 被覆線とチップ付の応答結果

図12 図11の温度微分波形
図12 図11の温度微分波形

(3)センサの取付による安定性の確認
今回の改良は、センサを取付けたときに安定した接触面を確保できるかどうかが課題である。つまり、取付・取外しを繰り返したときに、同じ計測条件を確保できるかどうか確認する必要がある。
図13は今回行ったテストの方法である。幅・深さとも 1.6mm長さ20mmの溝を切り、センサを取付ける近くに基準温度計測のためにセンサを取付ける。これは被覆線をアルミの耐熱テープで取付ける。この状態でヒータ一定出力で加熱し、熱平衡に近づける。その後、この溝にセンサの取付け・取外しを繰り返して温度が再現できているかどうかを確認する。

図13 取付安定性のテスト方法
図13 取付安定性のテスト方法

(4)センサの取付強度
センサはチップ付のセンサを2種類(同じ仕様であるが、ばらつきがある可能性を考慮して比較)。バネ付を1種類、比較対象として被覆線を1種類(合計4種類)の比較を行った。取付強度に関してであるが、被覆線は溝にはめ込んだだけでは固定せず外れてしまうので溝の上からアルミシールを貼り、シールと金型との間に差込んで取付けている。このため、手が触れただけでセンサは外れてしまう。これに対して、ばねタイプとチップ付ではばねと真鍮チップが溝にはまりこむので安定している。耐久性・熱膨張などの確認は必要であるが被覆線の改良案としては有効と思われる。

(5)取付安定性確認の結果
計測結果を図14に示す。完全に熱平衡していないので右上がりの温度波形になっているが、その波形上にヒゲが生えている状態が見て取れる。このヒゲはセンサを取り外したことにより発生している。金型から外されることにより、センサの先端の温度が急激に下がり、また金型に取付けられることで今度は急激に温度が上がるのでヒゲ状の波形となる。
図14のグラフで安定性をより分かり易く表現するため、それぞれのセンサ毎に基準温度からの差温をプロットしたのが図15である。いずれも取付の再現性が確保されている。ただし、被覆線はシールで軽く固定した状態であるので金型に振動がかかると外れる。あくまで比較の対象であることを追記しておく。

図14 取付安定性確認テスト結果
図14 取付安定性確認テスト結果

図15 図14の差温表示。左上:チップ1, 左下:チップ2, 右上:ばね, 右下:被覆線
図15 図14の差温表示。左上:チップ1, 左下:チップ2, 右上:ばね, 右下:被覆線

4.センサの精度

最後に、精度について一点紹介する。今回使用した計測システムはそれぞれ、センサと計測器の精度が定義されている。このカタログ値の参照が精度保証を行う場合必要となるが、一般にカタログ値は製造ばらつき・使用環境ばらつきなども考慮した表現方法を使用しているので、現在自分が行っている確認テストがそれに該当しているかどうか知る必要がある。これはなかなか手間がかかるので、ここでは簡単にセンサのばらつき・安定性を簡易に測る方法をご紹介する。

4-1.精度確認システム

図16 精度確認方法
図16 精度確認方法

図16に示すように、センサをまとめて水に浸すことで、センサと計測系のばらつきをある程度分かる。"ある程度"というのは室温付近の精度でかつ、水温が室温変化などで揺れる程度の精度で、という意味である。今回紹介したような多点のシステムでは、多数のセンサ、計測器を使用する。温度の外乱にはエアコンの風や気温の変動などがあり、これに計測系の固体誤差が加わると解析は複雑となる。計測系の誤差要因を切り出す一つの方法としてご紹介しておく。

4-2.計測例

図17に計測例を示す。15分程度で計測データは安定し、各固有値に近づいていくのが分かる。最大1℃の誤差(この場合は温度絶対値とのズレ)があるが、繰り返し精度(絶対値はズレているがそのズレが一定であるかどうか)は0.2℃程度に収まっていることが分かる。 この誤差は、センサのみの精度ではなく、センサと計測器のトータルの誤差であり、計測系の誤差となっている。また、あくまでも誤差レベルを把握するためのみの簡易手法であり、精度を保証するためのものではないことを繰り返しておく。

図17 センサ精度計測例
図17 センサ精度計測例

今回は温度の計測に関して、特に金型の表面温度に注目して事例を紹介した。また、多点制御を行うために、表面の温度分布の把握からセンサを取付けるまでの手順を紹介する中で、温度の計測方法に関する事例を紹介した。金型へのセンサ取付けの観点からは、文中に述べたように耐久性や熱膨張などまだ検討が必要であるが、被覆線の活用が有効であることを紹介した。今回紹介した事例がご参考になれば幸いである。

参考文献

  • 南野郁夫ほか、温度均一化を目的とする傾斜温度制御法の開発、電気学会論文誌C,Vol.122-C, No.11, pp.1954(2002-11)
  • 田中均ほか、傾斜温度制御法を搭載した温度調節器形EJ1の開発、OMRON TECHNICS Vol.47 No.1(通巻155号)2006
  • 今村隆司ほか、傾斜温度制御を用いた金型温度面内均一化の事例、プラスチックス、Vol.62, No.6 (2007)
  • 今村隆司ほか、金型温度面内均一化のための制御技術、プラスチックエージ、Vol.58, No.8 (2007)