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8.傾斜温度制御を用いた金型温度面内均一化の事例

今村 隆司、山根 恭二

弊社では、「簡単で高品質な温度コントロール」を目指して製品・技術の開発を行っている1)。弊社が開発した技術の一つである傾斜温度制御TM.2)は、元々半導体製造装置の熱板の温度分布を安定化するために開発されたが、これを幅広い用途に活用して頂けるよう汎用機「形EJ1 3)」への搭載を行った(傾斜温度制御搭載は形EJ1G)。
この技術を射出成形金型の温度管理へ適用するための検討を行い、良好な結果を得たので、本稿にて紹介する。

1.射出成形における温度の役割と重要性

写真1 上下方向の不一致
写真1 上下方向の不一致

射出成形における温度の果たす役割は「樹脂の溶解」と「樹脂の硬化」という基本的なプロセスでの管理指標といえる。溶解の部分は主としてシリンダが担当し、硬化の部分を金型が担う。

レンズなどの光学部品を成形する場合、成形部品の残留応力がその製品の光学特性に直接影響する。これは金型内で樹脂が硬化するプロセス、すなわち、金型と樹脂との熱交換プロセスの精密性であり、温度制御の観点からは樹脂温と金型温度の安定性に分解することができる。

デジタルカメラ・携帯電話などに取付けられる小型レンズは多数個取りのキャビティを金型上に構成することがコスト上有利であるが、この際に各キャビティの温度均一性が課題となる。

2.取上げた課題

射出成形のシステムは多様であるが、今回は「低コストで高品質を目論む」という観点でシステムを選定した。

2-1.条件

(1)金型は縦置き
成形機には縦型と横型があるが、小型化できることなどの理由から横型が広く普及している。この場合、金型は縦 (キャビティ面が地面に垂直) に取付けられている。

(2)キャビティは多数個取り
成形品のコストはマシン稼働率と金型製作費で決まることが多く、一つのショット・金型から複数個の成形品を取れれば、コストは下がる。

(3)熱源は外付けのプレート式ヒータ
金型温度の熱源は大きく分けて、①水・油を媒体にする方法、②電熱ヒータを使う方法、があり、取扱い性の観点では電熱式が便利である。電熱ヒータには差込式の棒状ヒータや外付けのプレート式があり、今回は取扱いが容易なプレート式のヒータを選定した。

2-2.課題

縦型の金型は、キャビティの上下方向で温度差が出るという課題がある。一般に多数個取りする金型の場合、流路を均一化するため、キャビティは金型中心から同一円周上に配置するのが理想的である。しかし、金型では熱が上昇していき、金型の上下で温度差が発生することが課題となる。

写真1は金型の四面(上下左右)を均等に加熱し、サーモビューアで撮影した結果である。熱が上に溜まり、上下が不均等になっている様子がよく分かる。

3.傾斜温度制御の適用

温度不均一の要因は上下の均等加熱なので、ヒータを分割して多点制御(多ch制御)に切り替え、多点制御用に開発された傾斜温度制御で改善を試みる。

3-1.ヒータの分割

図1 ヒータの分割
図1 ヒータの分割

図2 テスト用金型とヒータ(厚み 40mm SUS304)
図2 テスト用金型とヒータ
(厚み 40mm SUS304)

図1に示す通り、1chを8chに分割する。1chは通常のPID制御を適用し、8chは傾斜温度制御を適用する。実際のテストでは図2に示すように12枚のヒータを貼付け、配線を変えることで1ch、8chを切り替えている。なお、1chシステムでの制御用温度は金型の中心の表面温度である。8chシステムでは図1のA~Hの箇所の温度を使用している。

4.テスト結果

4-1.昇温波形

図3、4は室温から150℃までの昇温波形である。図3の1chシステムでは、制御点が昇温完了後も各点の温度がばらついているのが分かる。図4の8chシステムでは昇温途中も含め、A~Hの各点の温度が揃った状態で一本に見えている。

図3 1ch システムの昇温波形
図3 1ch システムの昇温波形

図4 8ch システムの昇温波形
図4 8ch システムの昇温波形

4-2.整定時の温度分布

図5 1ch, 8ch システムの温度分布比較
図5 1ch, 8ch システムの温度分布比較

金型の表面位置との関係を把握し易いよう、レーダチャートにプロットしたのが図5である。昇温完了後の70分時点の温度をプロットしている。1chシステムでは明らかに、温度は上方向(A, B, H)で高めに出ており、分布として上部にずれているのが分かる。最大で10℃近くの温度差があり、精密成形においては成形品品質への影響が少なくないと考えられる。これに対して、8chシステムでは制御温度の150℃に1℃とずれておらず、温度が均一になっているのが分かる。

4-3.立上時の差温特性比較

傾斜温度制御は多chの温度入力システムにおいて、過渡応答までカバーした温度の均一性を確保できるのが大きな特徴である。これを示すため図6、7に差温のトレンドグラフを示す。ここで言う差温とは各ch(A~H)の平均温度と各chの温度差で、ch間の均一性(今回の場合は金型面内の温度均一度)を表現している。図6は8chシステムすなわち、傾斜温度制御を使用した場合の結果で、立上時点のわずか±1℃程度の温度ばらつきを除くと、温度差は±0.5℃以内に収まっているのが見て取れる。今回の実験ではセンサとして K熱電対をアルミの耐熱テープで表面に貼付けており、波形上に観測される細かな振動はこの計測方法そのものの誤差と見られる。8chのシステムでは、ほぼ計測限界ぐらいまで均一化していると思われる。

図7は1chシステムの差温波形である。各chの温度が上下に入れ替わりながらそれぞれの平衡温度差に落ち着いていく。70分の時点では最大で10℃弱の温度差が出ている。傾斜温度制御との性能差は一桁近くになっている。途中、波形がクロスしているのは各ch間の干渉があるのと、温度が上がるのにつれて上下方向への温度ドリフトが発生するためと推察する。

図6 8ch システムで昇温した際の差温特性
図6 8ch システムで昇温した際の差温特性

図7 1ch システムで昇温した際の差温特性
図7 1ch システムで昇温した際の差温特性

4-4.サーモビューアでの確認

写真2 8ch システムによる温度分布
写真2 8ch システムによる温度分布

写真2は8chシステム、すなわち、傾斜温度制御による整定時の温度分布である。写真1のような上下方向の偏りはなくなり、均一性が確保されているのが分かる。

5.結論

本投稿では、精密成形で重要な金型の温度分布の特性改善に取組んだ。コストなどの観点から比較的広く用いられている金型システムに弊社の傾斜温度制御を適用した結果、元のシステムでは10℃程度出ていた温度差を1℃以内に抑え込むことができた。

6.今後の取組み

本稿では金型単体での温度均一について検討した。元々傾斜温度制御は過渡応答に対して特に有効な技術であり、成形機に取付けた状態での外乱や射出時の応答性についても検証して、より実用性の高い技術に仕上げていきたい。また、実用性の観点からは下記の項目も重要であり、併せて検討を進める。

6-1.金型取付けに配慮した温度センサ、ヒータの検討

今回提案した8chシステムは、1chシステムに比べて、ヒータ・センサの本数が増えるので、取付工数などが工場での操業時点で課題となる。この点についても併せて検討を進めている。

6-2.油・水循環式との差異

成形金型の温度管理では油・水の循環式も広く用いられており、ヒータ式のものとは金型の加工方法が異なる。今回の投稿ではヒータ式への適用を紹介したが、これを循環式に適用する方法を今後、検討していく。

6-3.傾斜温度制御の簡易調整

傾斜温度制御はその精密さゆえ、一般的な PID 制御より多数の調整パラメータが存在する。これらの同定・調整をより簡易にする取り組みも、この技術が広く使われるための要素の一つと考えている。

参考文献

  • 南野郁夫 ほか、温度均一化を目的とする傾斜温度制御法の開発、 電気学会論文誌C、Vol.122-C、No.11、pp.1954 ~ 1960(2002-11)
  • 田中均 ほか、傾斜温度制御法を搭載した温度調節器形EJ1の開発、OMRON TECHNICS Vol.47 No.1(通巻155号)2006