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6. 温度調節器におけるEMC対策
EMIレベルの改善とEMSでの指示値変動および電源への影響の改善について

伊藤 敏博、向井 淳

EMC Countermeasures for Temperature Controller
Improvement in EMI level fluctuation and influence of power source on EMS

Toshihiro Ito, Athushi Mukai

1996年1月、ヨーロッパでEMC指令が施行された。この規格に適合していない電子機器はCEマークを付けられず、ヨーロッパでの流通が規制されることになった。このため、各社ともこの対応にせまられている。

今回は、デジタル調節計 形E5CK, 温度調節器形E5CJ/E5BJ/E5EJのEMC 対策を行い、EMIレベルの改善と、EMSでの指示値変動、電源への影響の改善を行った。

本稿では、このEMC規格に対応するために行った一部を紹介する。

1.まえがき

近年、外来ノイズによる電子機器の誤作動や、電子機器から発生するノイズが他の機器を誤作動させる問題が注目されるようになってきた。このEMC 性能に対する問題に対し、各国でさまざまな規格が作成されてきたが、ヨーロッパでは経済圏の統一に合わせてEMCの規格もほぼ統一され(=ヨーロッパで整定されたEMC の調和規格、以下、EMC規格という)、1996年1月からEMC指令として施行された。

ヨーロッパにおける製品の流通には、流通規則への適合を示すCEマークの表示が必要だが、このEMC 指令により、電子機器へのCEマーキングのためには、EMC 規格に適合しなければならなくなった。

このため、各社とも、このヨーロッパのEMC 規格への対応にせまられている。
今回は、デジタル調節計 形E5CK、温度調節器 形E5CJ/E5BJ/E5AJ/E5EJに対してEMC対策を行い、EMIレベルの改善と、EMSでの指示値変動、電源への影響の改善を行ったので、この対策例の一部を紹介する。

2.商品の概要

形E5CJ/E5BJ/E5AJ/E5EJは、業界初のファジィセルフチューニング機能を搭載した、簡単操作の汎用温度調節器、サーマックJシリーズとしてご好評をいただいている。

形E5CKはJシリーズより高機能の位置付けとして、温度入力に加え、湿度や圧力といった各種のアナログ量も制御できる汎用調節器として開発された。形E5CKを含むKシリーズでは、本稿で紹介するEMCはもちろん、低電圧指令の強化絶縁、NEMA4など、海外の安全規格、防水規格に適合している。

いずれもEMC対応により、CEマーキングが可能となった。その外観を図1に示す。

デジタル調節計 サーマックK
デジタル調節計 サーマックK

温度調節器 サーマックJシリーズ
温度調節器 サーマックJシリーズ

図1 温度調節器の外観

3.EMC規格概要と今回の課題

本テーマの課題は、欧州で発令されたEMC規格、具体的には浮ノ示す工業用のEN50081-2, EN50082-2に適合することである。以下、EMC規格の概要を説明する。

EMCは「Electro Magnetic Compatibility=電磁両立性」の略で、EMI, EMSの2つからなり、機器から発生する電磁エネルギーが、他の機器に悪影響を及ぼさないレベルであること、および、外部からの一定レベルの電磁エネルギーに対し、機器が誤動作しない耐力があることが要求される。

3.1 EMI(エミッション)
図2 各EMIテストのイメージ図

図2 各EMIテストのイメージ図

EMIは、「Electro Magnetic Interference=電磁妨害」の略であり、エミッションとも呼ばれている。EMIには次の項目がある(図2参照)。おのおの、規格値以内に抑える必要がある。

  • 雑音端子電圧(以下、雑端という):
    機器の電源ラインから、供給電源側に戻る電磁エネルギー量を測定する。
    ・QP値(準先頭値)
    ・0.15 ~ 0.5MHz 79dBμV 以内
    ・0.5 ~ 30MHz 73dBμV 以内
    ・AVE値(平均値)
    ・0.15 ~ 0.5MHz 66dBμV 以内
    ・0.5 ~ 30MHz 60dBμV 以内
  • 放射妨害電界強度(以下、放射という):
    機器をターンテーブル上に置き、10m離れたアンテナで、空間伝搬する電磁エネルギー量を測定する。水平および垂直の2 方向で測定し、アンテナ高さは1~4m変化させる。基本は30m法だが、10m法も認められている。10mの規格値は以下の通り。
    ・QP値(準先頭値)
    ・30 ~ 230MHz 40dBμV/m 以内
    ・230 ~ 1000MHz 47dBμV/m 以内
3.2 EMS(イミュニティ)


図3 各EMSテストのイメージ図

EEMSは「Electro Magnetic Susceptibility」の略であり、イミュニティとも呼ばれ、次の4項目がある(図3参照)。おのおの、規定レベルの電磁エネルギーに耐えられる必要がある。

(1)電界強度イミュニティ(以下、電界という):
空中伝搬の電磁波に対する耐性を試験する。(水平、垂直の2方向)
  ・80MHz ~1GHz 10V/m (AM変調)
  ・900 ±~5MHz 10V/m (パルス変調)

(2)伝導性イミュニティ(以下、伝導性という):
ケーブルに直接、コモンモードのノイズ電圧を注入印加する。電源ラインおよびI/Oラインで試験する。80MHz以下の電界イミュニティを補う試験である。
  ・0.15~80MHz 10V

(3)静電気イミュニティ:
静電気に対する耐性を測定する。
  ・接触放電(イミュニティ) ±4kV
  ・気中放電(破壊電圧) ±8kV

(4)ファースト・トランジェント・パースト・イミュニティ:リレーノイズなどに対する耐性を測定する。
  ・電源ライン ±2kV
  ・プロセス/計測/制御ライン ±2kV
  ・信号ライン/データパス> ±1kV

3.3 今回の課題

今回の課題をまとめると、次の2項目になる。

  • EMIの雑端、放射各エミッションでの改善
  • EMSの電界、伝導性各イミュニティでの、指示値変動、電源への影響の改善

なお、静電気イミュニティと、ファースト・トランジェント・パースト・イミュニティについては、本稿では言及しない。

4.技術内容

4.1 EMC 対策のイメージ
図4 EMC対策のイメージ
図4 EMC対策のイメージ

図4 EMC対策のイメージ

EMC対策のイメージを図4に示す。

  • EMI:
    ノイズの主な発生源は、スイッチング動作をする部分で、パルス状に電流・電圧が変化するところとなる。つまり、1次側のメインスイッチング素子や、2次側の整流ダイオードがこれに該当する。これらに対し、いかにサージ的な変化をあたえないか、また、たとえノイズが発生しても、伝搬経路の中でいかに吸収し、外部に出さないかが重要となる。
    今回の電源(図5参照)の説明は、次節4.2で行うが、この電流に対するEMIのイメージを図6に示す。
  • EMS:
    印加するノイズの周波数から、どの部分がアンテナとなっているか推測する。侵入経路がわかれば、その系において不安定な動作となっている素子はないか、侵入するノイズを弱められないか、他へ逃がして影響を受けないようにできないか、などの観点から、対策を進めることとなる。

図5 電源回路ブロック
図5 電源回路ブロック

図6 EMIのイメージ図
図6 EMIのイメージ図
(ノーマルモードノイズとコモンモードノイズおよび雑端・放射エミッション

4.2 電源回路ブロック

今回のEMC対策は、電源に関わるところが多いので、対策を説明する前に、その基礎となる電源について説明する。回路ブロック図5に示す。

電源は、専用のスイッチングICを利用した、他励フライバック方式を採用している。周波数固定で、スイッチング素子のON/OFF時間の割合を変化させて、所定の電圧を得る回路方式である。ここで、スイッチング素子は、スイッチングICに内蔵のFETが該当する。また、入力電圧に対し周波数が一定なので、自励式よりも、ノイズの発生が安定している。なお、電源の2次側は、通信用・出力用など用途に応じて4~5系統がある。

4.3 EMI対策

今回行ったEMI対策のうち、以下の2項目について紹介する。いずれも電源回路における対策により、スイッチング時のサージを減少させたり、電流・電圧の傾き(変化の割合)を緩やかにする対策である。

4.3.1 電源トランス

雑端・放射エミッション両方の対策として、トランスの変更を検討した2)。トランスの1次-2次間の結合容量を調節し、スイッチング波形を緩やかにしたり、1次・2次で発生したノイズがトランスを通り越して互いに渡らせないことを主なねらいとして、以下の工夫、検討をした(図7参照)。

  • 巻き始め
  • 絶縁テープ、バリアテープ数

なお、試作と量産で製作方法が違う場合は、量産仕様で評価する必要がある。

(a)

(a)

(b)

(b)

図7 トランスの工夫

4.3.2 2次側整流ダイオードへのCRスナパ挿入
図8 2次側整流ダイオードへのCRスナパ挿入

図8 2次側整流ダイオードへのCRスナパ挿入

2次側整流ダイオードもノイズの原因となっている3), 4)。これは、スイッチの働きをしている2次側整流ダイオードで電流・電圧が急激に変化するためで、特にターンオフ時の逆電流が回復してくるときに発生する。この急変を防ぐ対策としては、CRスナパやフェライトビーズの対策が考えられる。これにより、ダイオードの見かけ上のターンオフ時間を短くしたり、逆電流を抑えたりしている(図8参照)。

4.4 EMS対策

今回行った電界・伝導性イミュニティの対策のうち、以下の2項目について紹介する。いずれも、高周波ノイズが侵入しても、影響を受けないように機器の動作を安定させる対策である。

4.4.1 パターン設計

図9 グランドパターンを“太く短く”する対
図9 グランドパターンを“太く短く”する対

熱電対などの入力ラインから高周波成分が侵入し、その影響で電圧が上昇し、測定値がドリフトする現象が生じた。このため、パターン設計を変更し、グランドラインを図9のように、一般に言われる“太く短く”した。これにより、高周波ノイズの影響を受けにくくした。

4.4.2 電圧変動

図10 EMSによる電圧変
図10 EMSによる電圧変

電源動作が影響を受ける原因の1つに、電源2 次側のVA-電圧は、ツェナーダイオードで設定されたいたが、この動作状態が影響を受けていた(図10参照)。

そこでツェナーダイオードに流す電流を増加させて、電圧を安定した状態にすることで、EMSの影響による誤動作が発生しないように改善した(図11参照)。理想的なツェナーダイオードであれば出力電圧はツェナーダイオードに流れる電流によらず一定であるが、現実のツェナーダイオードでは一定でなく、電流によって変化する。参考までに、ツェナーダイオードの電圧-電流の関係を図12に示す。

図11 ツェナーの安定化による対策
図11 ツェナーの安定化による対策

図12 ツェナーダイオードの特性
図12 ツェナーダイオードの特性

5.成果

対策によって、EMI2項目、EMS4項目とも条件を満足し、EMC規格に対応できた。

6.あとがき

デジタル調節計 形E5CK, 温度調節器 形E5CJ/E5BJ/E5AJ/E5EJに対しEMC対策を施し、CEマーキングを取得できた。これにより、CEマーク対応のシステム機器が組みやすくなり、欧州はもちろん国内でも販売量の拡大が期待できる。今後開発される商品に対しても、EMC対応が要求されており、さらなるノウハウの蓄積をしていきたい。

参考文献

  • 湯川格:“高周波によるスイッチング電源回路における低ノイズ化を実現するには、高周波化・軽薄短小化におけるスイッチング電源と事例”,ミマツデータシステム,pp.207-217, (1993)
  • 実践ノイズ対策研究グループ編:“Q&A 実践ノイズ対策-150 のヒント-”,オーム社,pp.96~97, (1994)
  • 戸川治郎監修:スイッチングレギュレーター実装トラブル対策の要点”,日本工業技術センター,pp.87-90, (1986)
  • 原田耕介, 二宮 保,顧 文建:“スイッチングコンバータの基礎”,コロナ社,pp.100 ~106, (1992)

執筆者紹介

伊藤 敏博 Toshihiro Ito

システム機器統括事業部開発センタ第3開発部
1992年立命館大学大学院理工学研究所電気工学専攻博士前期課程修了、
同年入社、専門:ハードウェア

向井 淳 Atsushi Mukai

システム機器統括事業部開発センタ第3開発部
1987年立命館大学大学院理工学研究所電気工学専攻博士前期課程修了、
同年入社、専門:ハードウェア、電子情報通信学会会員