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5. パネルマウント型コンポーネントの防水技術
デジタル調節計における防水構造について

北村 泰一、安藤 功策

Waterproofing Technique for Panel-mounting Components
The Waterproof Structure of Digital Controllers

Hirokazu Kitamura, Kosaku Ando

制御パネル取り付けのコンポ機器において防水性の強化(NEMA規格TYPE4に適合する水準)が要求されている。このような機器の中でも、デジタル調節計や温度調節器はケースをパネルに取り付けた状態で本体を引き抜く(ドローアウト)機構を必要とするので、ほかの商品群に比べて防水性能の確保がはるかにむずかしい。この課題を克服し、NEMA規格TYPE4に適合する防水構造を実現するために、以下の2点を中心とした検討を行った。

・ゴム全面を均一に圧縮できる固定構造
・接着性のよい粘着剤とその塗布方法

これらの検討結果をデジタル調節計(形E5CK/E5AK/E5EK)の開発に盛り込むことにより、ドローアウトが可能でかつNEMA規格TYPE4に適合した商品を開発できた。

1.まえがき

デジタル調節計、タイマ、カウンタ、デジタルパネルメータなどの制御パネル取り付けのコンポ機器では、使用環境の多様化にともない、防水性の強化が要求されている。

特にヨーロッパ、北アメリカの食品業界では制御パネル面を水洗するので、制御パネル面から機器内部への浸水を防ぐための防水機能の整備が標準となりつつある。

従来、防水が必要な現場ではコンポ機器それぞれに防水カパーを取り付けて対応していた(図1)。しかし、この方法では「設定温度、警報温度などを変更する都度、カパーを外さなければならない不便さ」、「前面の外形が大きくなる」および「コストアップする」などの問題があった。そこで、ユーザからはカパーを付けることなくコンポ機器本体に防水機能を付けることが望まれてきた。

図1 パネル取り付け状態の比較 図1 パネル取り付け状態の比較
図1 パネル取り付け状態の比較

図2 ドローアウト状態図
図2 ドローアウト状態図

また、デジタル調節計においては、客先のアプリケーションによって制御方法、出力方法、入力センサが異なる。実運転する前に、制御出力ユニットの取り付け、入力センサの設定などの調整作業が必要である。これらの作業はデジタル調節計の本体内部で行うので、本体をドローアウト(図2)しなければならない。また、これらの設定は各ユーザが実施するので、本体を制御パネルに取り付けた状態でドローアウトできなければならない。

そこで、新型デジタル調節計 形E5□K(形E5CK/E5AK/E5EK)シリーズの開発にあたっては、当初から「ユーザが簡単にドローアウトできること」および「NEMA規格TYPE4(以下NEMA4)の防水性を満足すること」を基本仕様として盛り込み、これを実現した。なお、前面外形サイズは従来品の置き換えが可能となるように、DIN規格のパネルカット寸法に準じて、形E5CKは53mm×53mm, 形E5EKは48mm×96mmとした。

本稿では形E5□Kの防水構造の概要について説明し、防水のために必要とされるゴムの密着性およびシートの粘着剤について実験により検討した結果を報告する。

2.全体の構成

2.1 防水の基本原理

一般的に制御パネル取り付けのコンポ機器に要求されている防水性能とは、「制御パネルにコンポ機器を取り付けた状態で、パネル前面からの放水に対して、コンポ機器内部に水が浸入しないこと」である。水はパネルの前面から内部へつながるすきま(水の通り道)から浸入する。このすきまをなくすことで水の浸入を防ぐことができる。具体的な方法として、以下の2つを検討した。

  • シートによる防水
    本体表面にシートを貼り、本体表面にある穴などのすきまをシートでおおうことにより防水する。この場合、「シートと本体表面の接着面積を確保すること」と「粘着剤の接着性を向上すること」が重要である。
  • ゴムによる防水
    部品と部品の間にゴムを入れ、そのゴムの弾性を利用して部品間を密着させることにより防水する。この場合、ゴムを均一に圧縮できる(ゴムの反発力によって部品が変形しない)構造にすることが重要である。
.2.2 形E5□Kの防水構造

図3 形E5CKの全体構造
図3 形E5CKの全体構造

図4 形E5CKパッキン圧縮構造
図4 形E5CKパッキン圧縮構造

図5 形E5AK全体構造
図5 形E5AK全体構造

前記の基本原理をもとに検討した形E5□Kの防水構造について説明する。形E5CKと形E5AK/E5EKでは構造が異なるので、それぞれの構造について説明する。

形E5CKの全体構造を図3に示す。形E5CKにおいてパネル前面部の防水性を確保するためには、以下の3箇所からの浸水を防ぐ構造にする必要がある。

  • シートフロントとケースフロントの接着面
    (図4)
  • ケースフロントとケースリアの接合面
    (図4)
  • ケースリアと制御パネルとの接合面
    (図4)

形E5AK/E5EKの全体構造を図5に示す。形E5AK/E5EKでパネル前面部の防水性を確保するためには、以下の4箇所からの浸水を防ぐ構造にする必要がある。

  • シートフロントとケースフロントの接着面
    (図6)
  • ケースフロントとケースリアの接合面
    (図6)
  • ケースリアと制御パネルとの接合面
    (図6)
  • ねじ挿入部の穴
    (図7)

次に上記(1)・(2)・(3)および(4)の防水構造について説明する。

(1)の構造としては、粘着剤を印刷したシートフロントをケースフロントに貼り付け、粘着剤によって両者のすきまをなくし浸水を防ぐようにした。
(2)の構造としては、ケースフロントとケースリア間にゴム(パッキン1)を入れ、これを圧縮して固定することですきまをなくし浸水を防ぐようにした。
(3)の構造としては、ケースリアと制御パネル間にゴム(パッキン2)を入れ、固定具によってゴムを圧縮し浸水を防ぐようにした。
(4)の構造としては、ねじにOリングを入れて、ねじとケースフロント間のすきまをOリングによって密閉し浸水を防ぐようにした。
(3)および(4)については当社の従来技術を利用したので、本稿では説明を省略する。したがって、(1)および(2)について実験により検証した結果を技術内容の項で報告する。

図6 形E5AK/EKパッキン圧縮構造
図6 形E5AK/EKパッキン圧縮構造

図7 Oリング構造
図7 Oリング構造

2.3 防水規格

保護構造の規格であるNEMA4について説明する。NEMA4の定義は、「風塵、風雨、水の飛沫、ホースによる水の直接噴流に対する保護程度」である。試験項目として、着水試験、耐錆性試験およびホースダウンテストの3項目がある。ここでは防水性に関するホースダウンテストの試験条件についてのみ説明する。

試験条件は直径25.4mmのノズルから3.05~3.65m の距離に設置されたサンプルに流量246 L/minの水を5分間放水する(図8)。試験装置の外観を図9に示す。
判定基準は試験後に機器内部に浸水のないことである。

図8 NEMA4ホースダウンテスト
図8 NEMA4ホースダウンテスト

図9 試験装置
図9 試験装置

3.課題

3.1 要求仕様

今回の防水構造の設計における要求仕様について説明する。

  • 従来品の置き換えが可能となるためにパネルカット寸法がDIN規格に対応していること。
  • ドローアウトが可能でNEMA4を満足すること。
3.2 技術課題

上記の要求仕様を達成するために検討が必要な技術課題について説明する。

  • シートフロントとケースフロント間において、少ない接着面積で防水性を満足すること。
    LED, スイッチなどの実装部品があるので、ケースフロントには多くの開口部があり、シートフロントを粘着させる面積が限られている(図10)。粘着剤の材質、印刷方法を変更し、限られた面積でも、シートフロントの十分な接着力を確保し、防水性を満足する必要がある。
  • ドローアウトが可能でかつ防水性を満足すること。
    従来のNEMA4対応商品(タイマ、カウンタ)では、ユーザがドローアウトする必要はない。そのため、ゴムを圧縮するための固定部は複数取り付けることができ、内部構造の取り外しを考慮に入れない固定方法でも問題がなかった。しかし、今回はユーザが簡単にドローアウトできるようにしなければならないので、開け閉めが可能な固定方法でゴムを圧縮する必要がある。

図10 形E5CKのシートフロント貼り付け面
図10 形E5CKのシートフロント貼り付け面

4.技術内容

4.1 シートフロントとケースフロント間の防水

シートフロントは環境試験によって、シート外観を損なうおそれがある。そこで、防水性を満足するだけでなく、環境試験にかけてもシートフロントの外観を損なうことのない粘着剤を検討した。

現在使用されている2種類の粘着剤の材質および印刷方法について比較試験を実施した。比較試験の内容は次のとおりである。

  • 環境試験でシートフロントに外観を損なう問題が発生しないこと。
  • NEMA4ホースダウンテストで本体内部に浸水しないこと。

この比較試験結果を浮ノ示す。
Type2は時間が経過していくと、粘着剤が硬化していく。一方、Type1は時間が経過しても硬化しない。そのため、環境試験においてケースフロントとシートフロントの密着性がよく、外観を損なう問題が生じない。このことから、材質はType1が適していることがわかった。

印刷方法としては、一般的にはType3を用いる。しかし、Type3ではホースダウンテストにおいて浸水が見られた。そこでType4では印刷方法を変更し、粘着剤がよりいっそう均一に印刷されるようにした。この結果、シートフロントとケースフロントの密着性は向上し、ホースダウンテストでも浸水しないようになった。

これらの比較試験の結果、粘着剤の材質はType1が、印刷方法はType4が適していることがわかり、この粘着剤を採用した。

普@比較試験一覧

シートフロントの粘着剤 NEMA4
ホースダウンテスト
環境試験
粘着剤材質 印刷方法
Type1 Type3 不合格 合 格
Type1 Type4 合 格 合 格
Type2 Type3 不合格 不合格
Type2 Type4 合 格 不合格
4.2 ケースフロントとケースリア間の防水

図11 ひずみと浸水量の関係
図11 ひずみと浸水量の関係

防水性を満足するために必要なゴムの最低圧縮ひずみを実験により求めた(図11)。ゴムの材質、硬度については、性能面(耐油性、耐候性など)およびコスト面から、従来から防水に使用しているゴムを用いた。実験によりえられた圧縮量をもとにケースフロント、ケースリア、ゴムを設計した。しかし、ケースフロントとケースリアの固定構造が従来品のような1点止めの構造ではゴム全面を均一に圧縮できない。また、ドローアウトを可能にするためには、固定部を多数つけることができない。そこで、今回はケースフロントとケースリアの固定方法を新たに検討した。

  • 形E5CKの固定方法
    形E5CKは工具なしでドローアウトできるワンタッチドローアウトを仕様としたので、ケースフロントの左右2点にフックをつけて、ケースリアに固定する方法を採用した。また、ゴムの断面形状を円形にすることにより、ゴムの圧縮を容易にし、圧縮面において最低圧縮量を確保できるようにした。ゴムはフックの内側に入れ、フックの隙間から浸水しても、内部には入らない構造とした。
  • 形E5AK/E5EKの固定方法
    形E5CKと比較して外形が96mmと大きいので、形E5CKのような固定方法ではドローアウト時に指でフックを外すことが困難である。そこで、ケースフロントの下方にねじ、上方にフックをつけることで、ゴムの最低圧縮量を確保するような固定方法とした。フックを付けた場合、そのフックおよびフックがたわむスペースが必要となり、外形サイズが96mmより大きくなる。外形サイズをDIN規格にするために上部のフックを付けた一部分だけを大きくし、ほかは96mmとなるようにした(図12)。

図12 形E5AK全面外形図
図12 形E5AK全面外形図

あとがき

53mm×53mm, 96mm×96mm, 48mm×96mmサイズのデジタル調節計 形E5□Kにおいて、国内業界初のドローアウトが可能でNEMA4 に適合した防水構造が達成できた。この形E5□Kにおいてさらなる防水技術の蓄積ができたので、今後の汎用コンポ商品にこの技術を流用していきたい。今後、防水性能の寿命、高温負荷時における防水性能の限界について検討し、防水技術のいっそうの強化をはかっていきたい。

参考文献

  • 菱川謙:“トータルタイマ・カウンタ形H7GP/HPの防水設計”、OMRON TECHNICS, Vol.36, No.1, pp.62~65 (1996)

執筆者紹介

北村 泰一 Hirokazu Kitamura

システム機器統轄事業部開発センタ第3開発部
1991年大阪市立大学工学部機械工学科卒業、
同年入社、専門:機械工学

安藤 功策 Kosaku Ando

システム機器統轄事業部開発センタ第3開発部
1989年横浜国立大学工学部物質工学科(安全工学大講座)博士課程前期修了、
同年入社、専門:ハードウェア