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3. フィードフォワード制御による最適熱量注入技術

内山 直隆、南野 郁夫、上田 民生

The optimized heat addition method using feed-forward control

Naotaka Uchiyama, Ikuo Nanno, Tamio Ueda

温度制御における制御性能において、ユーザーからの要望の多い項目の一つに外乱応答時の温度波形の乱れと整定時間の減少がある。制御対象はむだ時間+時定数の特性を持っており応答に遅れが発生するため、従来のPIDアルゴリズムではこの特性の改善に限界があった。

この問題を解決するために、外乱応答そのものに対してフィードフォワード制御アルゴリズムを導入した。この方式では操作量に、外乱に同期させた打消し操作量を追加することでこの特性を改善できた。この方法により、外乱応答による温度変化が減少し、客先での外乱による温度の低下を1/2程度に低減することができた。

本稿では、この技術の詳細について述べる。

Both to be smaller the temperature variation and to be shorter the setting-time,in the disturbance responce, are one of the biggest demand from customer,who uses temperature controllers.The conventional PID algorithm could not improve these charactors more than any degrees which was limited by the delay of the dead time and time constant of controlledobject.The feed-forward control algorithm could break this limitation.The new method which inclease the manipurated variable additionaly synchronaized with disturbance,improve the charactors very well.Using this method, we successed to decrease the temperature variation in a disturbance response until fifty percent on our customers machine.This paper shows the detail of this method and how to adjust the additional manipurated variable.

1.まえがき

温度制御などの簡易計装の分野では、PID制御が広く普及している。PID制御は、直感的に制御動作がわかりやすいことや、パラメータのチューニングが簡単であるなど多くの利点があるので、実際のフィールドの中でオペレータのノウハウも蓄積され、基本技術として認識されている。

温度制御における制御性能において、ユーザからの要望の多い項目の一つに外乱応答性能の向上がある。外乱が発生した際の温度の乱れ、すなわちオーバーシュートやアンダーシュートは極力小さいことが望ましく、またひとたび温度が乱れたあと再び目標値に収束安定するまでの時間、すなわち整定時間は極力短いことが望ましい。

ところが、従来のPID制御方式では、制御系に外乱が印加された場合、制御量である温度が乱れてはじめて外乱抑制の制御を開始するいわゆるフィードバック制御のため、制御に遅れが生じる。2自由度PID制御方式についても、目標値に対する応答と外乱に対する応答を独立に調節できるため、両方の応答を同時に最適に調整することができる。しかし、外乱応答時に限って言えば、従来のPID制御より外乱応答特性を向上させる制御パラメータを設定できるが、外乱に対する基本の制御方式については、あくまで外乱によって制御量である温度が変化してはじめて制御を開始するフィードバック制御であるため、その性能については自ずと限界があった。

こういった問題を解決するために、外乱応答そのものに対してフィードフォワード制御を導入した。この制御方式によって、外乱応答性能を大幅に向上することが可能となる。

本稿は外乱対応性能の向上における、フィードフォワード制御による最適熱量注入技術の有効性について述べる。

2.構成

2.1 包装機および外乱発生の仕組み

今回、実例として包装機を取り上げた。今回検証したアプリケーションである包装機に関して、その動きの仕組みおよび外乱発生の仕組みを述べる(図1)。包装機とはフィルムによって、固体、液体、粉末状など様々な形態の製品を製品単位毎に包み、重ねあわせたフィルム端部どうしをヒータによって熱圧着して接着、いわゆるシールすることで製品の包装をおこなうものである。製品例で言うと、個別に包装された食品類、粉末状の薬品、レトルトパックなど多種多様にわたる。使用するフィルムの材質、厚さなどによってシール可能な温度範囲が各々決まっており、シールの際にヒータの温度がこの温度範囲より上昇すればフィルムは高熱のため溶けてしまい、低下すれば熱量不足のため正常にシールがおこなえず、ともに製品不良となる。よって包装機のヒータ部の温度は外乱などの諸条件にもかかわらず極力目標温度に保たれることが望ましく、温度調節器によって一定温度になるよう温度管理をおこなっている。

包装機のヒータが目標温度に安定していて製品が流れていない状態、いわゆる待機状態では、制御対象であるヒータ部の温度および温度調節器の操作量は安定している。ところが運転を開始して製品が流れ、製品の包装を開始すると、シールすることによってヒータの熱量がフィルムに奪われ、一時的にヒータの温度が低下する。制御系の状態を乱そうとする外的作用として外乱を定義すると、この運転開始時の温度低下が包装機での外乱と言える。運転開始時に温度が低下する理由すなわち外乱発生の仕組みは、先述したようにシールすることによってフィルムに熱量が奪われることの他に、ヒータ部分が稼動することで大気中に熱を拡散することなど、幾つかの機械的現象が要因として複合的に絡み合ってのことである。

外乱の発生によって制御対象であるヒータの温度が低下した場合、それを検出した温度調節器は、フィードバック制御により操作量を増加させることで温度を上昇させ、再び目標温度に収束させようとする。このときの温度低下が著しいとヒータがフィルムをシールできる温度範囲を逸脱してしまい、シール不良による製品の不具合が発生する。現に、現場では運転開始毎に発生するヒータ部の温度低下、いわゆる運転開始時の外乱によってこういったシール不良を発生させるケースがある。そして運転開始毎に最初の幾つかの製品がシールができていない不良品となり、廃棄する場合もある。包装機による作業現場では、フィルムの交換その他のメンテナンスなどにより、1日に何度か包装機の運転を停止する。その都度、運転開始毎にシール不良は発生するのでそれによる損害は決して小さくない。

図1 包装機による包装方法
図1 包装機による包装方法

2.2 フィードフォワード型最適熱量注入技術の基本原理

包装機の運転開始時に発生する外乱によってヒータ温度が低下してシール不良に至る問題を解決することを今回の技術の目的とする。

今回使用したフィードフォワード型最適熱量注入技術は、外乱検出部および、PIDに外乱打消し操作量印加部を追加した簡単な構成で実現される。この構成を図2に示す。フィードバック制御は制御量変化を検出してはじめて対応する後手の制御方式である。これに対してフィードフォワード制御は、制御系に外乱が印加されたことを検出したら制御量変化が現れる前に外乱を打ち消すための外乱打消し操作量を印加することで、前もって対応する先手の制御方式である。つまり、制御量の変化を検知してからこれを抑えにかかるのではなく、制御量の変化を見越してそれを消去するための操作量を予め印加しておくというものである。

今回考案したフィードフォワード型最適熱量注入技術の基本原理は、手順に従って述べると次のようになる。

  • 外乱に相当する操作量を同定する。
  • 同定した外乱操作量と正負逆で同じ大きさ、形状の操作量を、外乱打消し操作量として出力できるようにする。
  • 外乱の発生を検知する。
  • 外乱発生と同時に外乱打消し操作量を制御対象に印加して外乱を打ち消す。以上の手順によって外乱による制御対象の温度低下を極力小さくすることを目的とする。

図2 本技術のブロック図
図2 本技術のブロック図

3.技術内容

3.1 外乱打消し操作量の決定

フィードフォワード型最適熱量注入技術の基本原理は、図2に示す『実際に加わる外乱』を『操作量として想定した外乱』に置き換え、この『操作量として想定した外乱』と正負逆の外乱打消し操作量を、外乱が印加されるのと同時に制御対象に印加して外乱を打ち消すことである。よって外乱による制御量の変化すなわち温度の乱れを極力小さくするためには、次の二つの内容が重要となる。

一つは図2の『実際に加わる外乱』が印加されたタイミングで外乱打消し操作量の印加を開始することで、そのためには、外乱発生のタイミングを正確に検知することが必要である。もう一つは外乱打消し操作量の大きさ、形状が外乱の大きさ、形状と一致することである。

最初の問題である、外乱が実際に印加されるタイミングを検知することは難しいことではない。外乱が印加されるタイミングは運転開始のタイミングであるので、製品が流れているか否かをセンサで検出する、あるいは運転スイッチからの信号によって、運転開始すなわち外乱発生のタイミングをとらえるのは容易なことである。

しかし、もう一つの問題すなわち外乱打消し操作量の導出は簡単ではない。なぜなら外乱を波形として正確に抽出することが困難だからである。制御系の中で制御量である温度波形、もしくは操作量すなわち温度調節器の制御出力は検出することができるが、外乱そのものの波形は検出できない。外乱が制御系に印加された結果を制御量あるいは操作量の変化として捕らえるのみである。

よって今回、実際に加わる外乱を操作量として想定し、温度波形の最大傾き、ステップ応答の波形、定常ゲインおよび伝達関数による計算などから外乱を操作量として検出し、それと正負逆の操作量を外乱打消し操作量として導出した。抽出した外乱打消し操作量の検証として、実験的解析手法を導入し、最適な外乱打消し操作量を効率よく抽出する手段を確立し、これをベースにしてオートチューニング計算式を導出して結果の検証をおこなった。

3.2 実験的解析手法

今回、外乱打消し操作量の最適値の検証として、実験的解析手法を導入した。具体的にはL9実験による直交多項式の導出、最小2乗法による最適条件抽出を実施した。

内容について述べると、先ず外乱打消し操作量の形状を数パターン準備する。例えば減衰波形、三角波、様々なステップ操作量の組み合わせなどである。この中からアプリケーションに最も適した外乱打消し操作量のパターンを選択する。次に外乱打消し操作量の大きさ、形状を決定するパラメータを制御因子として設定し、各制御因子について3つの水準を設けて直交条件にしたがってL9実験を実施する(図3)。この結果から直交多項式を作成して外乱打消し操作量と温度波形との間の関係式を導出する。それによって、温度波形の乱れを最も小さくするための外乱打消し操作量の各制御因子の最適条件を抽出する。また、外乱打消し操作量と温度波形との間の関係式から、最適条件での温度波形の予測をおこなう。制御量と目標値との乖離に関しては最小2乗法を用いて解析した。

これにより、試行錯誤では数十回の実験を要する外乱打消し操作量の最適条件の導出が、9回の実験結果からの解析で効率的に抽出できる方式を確立した。また、外乱打消し操作量の条件による温度波形の精度の高い予測が可能になった。これより、温度波形シミュレーション環境構築を実現した。

制御因子 水準1 水準2 水準3
     
     
     
 
1 1 1 1 1
2 1 2 2 2
3 1 3 3 3
4 2 1 2 3
5 2 2 3 1
6 2 3 1 2
7 3 1 3 2
8 3 2 1 3
9 3 3 2 1

図3 制御因子の直交表への割付け

4.効果

4.1 効果の理論検証

最適熱量注入技術の効果を理論的に検証する。熱系モデルを1次遅れで表わした場合、R:熱抵抗,C:熱容量,K:ゲイン,S:演算子とすると、温度θoは印加熱量θi に対して下の式で表わされる。

また、熱系モデルは、K=1としたとき、電気回路系モデルに置き換えて考えることができる。よって電気系の等価モデルで考える。

ヒータだけの熱容量をCh、周囲の熱容量をCaとし、ヒータと周囲の温度をTh,Ta、ヒータ内の熱抵抗と、包装機運転中にヒータが稼動したときのヒータから周囲への熱抵抗をRh,Raとする。包装機が運転状態でなくヒータが稼動してないときは、ヒータは周囲と断熱に近い状態にあり、稼動することで周囲に熱を拡散した結果、熱抵抗が小さい状態に変化することを電気回路のスイッチで模擬して考える。その時の熱容量と温度の変化を図4に、電気回路で表わした等価回路モデルを図5に示す。実際には温度分布などがあり複雑であるが、検証を目的としているため、簡単にこの程度のモデルとした。

図4 熱容量と温度変化
図4 熱容量と温度変化

図5 等価モデル
図5 等価モデル

ここで外乱は図5の等価モデルの周囲に奪われる熱量qaとして考えられる。外乱qaの形を計算で求める。計算の簡素化のために、仮にTh-Taが一定と近似できるとする。Th'=Th-Taとすると

したがって、計算式により外乱の熱量は減衰カーブの波形であることが検証できる。この形はシミュレーション上で実測データに一致するように合わせ込んだ外乱の波形ともよく一致している。

4.2 実機検証

図6 当社京都研究所での実機検証結果
図6 当社京都研究所での実機検証結果

図7 客先1での実機検証結
図7 客先1での実機検証結

図8 客先2での実機検証結果
図8 客先2での実機検証結果

本技術を、当社京都研究所実験設備および包装機メーカである客先2社にて検証実験した。客先での外乱打消し操作量の最適値の導出にあたって、実験的解析手法を用いた解析をおこない、最適な外乱打消し操作量を導出した。

結果を図6~8に示す。図の縦軸は目標温度からの乖離を、横軸は包装機運転開始からの経過時間をあらわす。図のとおり、最適熱量注入技術を用いた場合、それぞれの包装機で通常の制御に対して運転開始時の外乱による温度の低下を1/2程度に低減することができた。

また、実験的解析手法によって解析した最適条件での温度波形の予測と、その条件での実測波形は、当社京都研究所実験設備および客先2社での実験で、常時0.6(℃)以内で、波形的に見ても極めて似ており、構築したシミュレーションの精度の高さが実証できた(図6~8)。

結果として包装機の仕様によらず、いろいろな客先設備に各々対応できる外乱打消し操作量の最適条件の抽出方法が確立できた。

ところで、制御対象の温度波形に対する客先の要望は様々である。究極の理想は当然、外乱が印加されても一切温度波形の乱れない状態ではあるが、制御系におけるむだ時間その他の要因のため現実的には難しい。温度波形の若干量の乱れは避けられない状況の中で、どの条件を優先するかは客先により異なる。例えばオーバーシュートはある程度許容できるがアンダーシュートは極力無くしたいとか、なにより整定時間の短縮が望ましいとか、アプリケーション毎に温度波形に対する要望項目は異なる。今回は最小2乗法をもって理想の波形に極力近づける解析を実施したが、客先の要望事項によっては最小2乗法に代わる別の解析手法をもって理想の波形に近づけていくことで、客先の要望する温度波形を求めていくシミュレーションも可能である。

4.3 オートチューニング

外乱打消し操作量の最適パラメータの導出にあたり実験的解析手法による解析をおこなうことで、現場での調整によって外乱打消し操作量が容易に抽出できるようになった。

外乱打消し操作量の自動抽出も含めた本技術の温度調節器への搭載を考える。本技術を温度調節器に搭載する場合、いかにして外乱打消し操作量をチューニングするかがポイントとなる。よって、制御量の温度波形の各パラメータから最適な外乱打消し操作量を抽出する、いわゆる外乱打消し操作量のオートチューニング方法を構築した。

これは、まず制御量である温度波形と、外乱打消し操作量の波形の、互いに深く関係するパラメータを抽出し、伝達関数の計算式より、各々のパラメータどうしの関係式を予め求めておく。関係式導出には、温度調節器の操作量も関与する。

そして、外乱発生時に外乱打消し操作量を印加しない状態で制御し、最初にそのときの温度波形を観察する。こうして得られた温度波形の大きさ、形状を決定する各パラメータを、先述の実験から求めておいたパラメータの関係式を用いて解析することで、最適な外乱打消し操作量のパラメータを導出する方法である(図9)。

この方法によれば、外乱による制御対象の温度波形を一度サンプリングすれば、そこから最適な外乱打消し操作量を導出できる。現在、この方法によって外乱による温度波形を改善するパラメータを抽出することができ、その確からしさも実験的解析手法から確認できた。

図9 オートチューニングの概念図
図9 オートチューニングの概念図

5.むすび

外乱打消し操作量を用いたフィードフォワード型最適熱量注入技術によって外乱応答性能が大幅に向上でき、客先での外乱による温度の低下を1/2程度に低減することができた。

また、実験的解析法を導入することにより、理論的な実験方法をおこなうことで実験式が容易に作成でき、外乱打消し操作量の最適条件を効率的に抽出することができた。

さらに、制御波形と操作量から外乱打消し操作量の最適条件を抽出する外乱打消し操作量のオートチューニング技術を構築した。

本技術は外乱による温度波形の乱れに対する調整技術の確立であり、包装機業界にとどまらず温度調節器によって制御される制御対象すべてに適用可能であることから、今後は他業界への展開も検討する。

参考文献

  • OMRON TECHNICS, Vol.28, No.4
  • OMRON TECHNICS, Vol.30, No.4
  • 田口 玄一 著:技術開発における品質工学(日本規格協会)
  • 有光 茂 著:包装技術18 No.2 7~13 1980
  • 自動制御ハンドブック 基礎編(計測自動制御学会 編)
  • オフライン品質工学Advance Courseテキスト(ITEQ International)

執筆者紹介

内山 直隆 Naotaka Uchiyama

インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー産機コンポ統轄事業部 監視制御事業部開発室、1991年岡山大学工学部情報工学科卒業、同年入社、専門:電子工学、“太陽光発電用パワーコンディショナの開発”、(OMRON TECHNICS, Vol.34, No.4 (1994))などの論文を発表

南野 郁夫 Ikuo Nanno

インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー産機コンポ統轄事業部 監視制御事業部開発室、1982年広島大学工学部II類電子物性工学科卒業、1991年入社、専門:制御工学、“発電効率UPのための逆流防止リレーの開発”(日本太陽エネルギー学会、1993年研究発表会)、“逆流防止リレー(ソーラ・リレー)の開発”(OMRON TECHNICS, Vol.34 No.3 (1994))、“逆流防止リレーの信頼性評価”(日本太陽エネルギー学会、1994年研究発表会)、“逆流防止リレーを応用したソーラー充電器の開発”(日本太陽エネルギー学会、1995年発表会)、“逆流防止リレーを応用した小型ソーラー充電器の開発”(日本太陽エネルギー学会、1997年研究発表会)などの論文を発表、計測自動制御学会、日本太陽エネルギー学会 各会員

上田 民生 Tamio Ueda

インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー産機コンポ統轄事業部 監視制御事業部 開発室、1986年大阪大学基礎工学部制御工学科卒業、同年入社、専門:制御工学、“2自由度PID制御方式による温度制御”(OMRON TECHNIC, Vol.28 No.4)、“2自由度PIDとファジイのハイブリッド制御方式による温度制御” (OMRON TECHNICS, Vol.30 No.4)、“改善要求を直接入力できるPID制御用チューニングインターフェイス” (OMRON TECHNICS, Vol.32 No.2)、“PIDゲインを自動的に調節するセルフチューニングアルゴリズムの開発”(OMRON TECHNICS, Vol.33 No.1 (1993)などの論文を発表